第78話:アリーナとレアボスモンスター④
サポートに回っているアルストは、ボスフロアをくまなく観察していた。
現在の風景は森の中であり、様々なものを利用してパラディホースを壁際に追い込むことが可能である。
だが、今のアルストにはフレイムとサンダーボルトしか攻撃手段がなく、何をするにも地形を利用することが必要になっていた。
「足元を崩すことは可能だと思うけど、もう通じないだろうな」
地面を凍らせたブリザードバレットによる攻撃も、一定の効果はあったものの転倒させるには至らなかった。
ならば、同じ攻撃なら対処されてしまうだろうと考える。
「他に利用できるものはないか? パラディホースの特徴はなんだ?」
右手にランス、左手に盾を持ち、攻防兼ね備えたモンスター。
攻撃にもランスを投擲するなど工夫を凝らしており、同じ攻撃には対処してくる知恵も兼ね備えているので、一筋縄ではいかない相手。
「……パラディホース……機械、騎士?」
アルストは改めてパラディホースの名前に注目する。
機械騎士と冠しているパラディホースだが、今のところそのような特徴を見せてはいない。
それどころか、半人半獣となり機械とはかけ離れた見た目になってしまった。
「……まだ何かあるのか?」
パラディホースが本当に機械ならば、それに合わせた攻撃手段を持っているのではないか。HPバーが一本無くなり半人半獣になった今でも、別の何かが存在するのではないか。
「……マズい、アリーナさん!」
アルストは大声でアリーナに声を掛けた。
※※※※
ブリザードバレットで地面を凍らせ、少しでもパラディホースの進行を妨げようとしたアリーナだったが、パラディホースは氷を四肢で砕きながらアリーナへと迫ってくる。
振るわれるランスを紙一重で回避しながら、射速の速いサンダーバレットを後方から撃つ。
弱点である背後から命中するものの、そのダメージは芳しくなくアリーナは困惑顔を浮かべていた。
「──アリーナさん!」
「アルスト君?」
そこに響いてきたアルストの声に、アリーナは異様な不安感を抱いていく。
直後に聞こえてきたのは──謎の駆動音。
──キイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!
二人の視線はパラディホースへ向けられる。
盾を落として両手でランスの柄を握っているパラディホースは、その切っ先を地面に突き刺した。
『ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
突如、パラディホースの体が発光したかと思えば、体からランスを通じて地面へと雷撃が扇状に広がりを見せた。
アルストとアリーナが麻痺にするためにぶつけ続けた雷属性の攻撃を、その身に蓄積させていたパラディホースは、雷をそのまま二人に返してきたのだ。
距離が離れているアルストは雷撃の射程外へすぐに逃れることができたのだが、扇状に広がるその中心にいたアリーナは回避が間に合わなかった。
それでも、後方へと大きく移動して少しでも威力が薄くなるための行動を取る。
「──きゃああああああああっ!」
「アリーナさん!」
体を仰け反らせながら悲鳴を上げるアリーナ。
その様子を真っ直ぐに見つめているパラディホース。
まさかアリーナでも敵わない相手なのかと、アルストは内心で驚愕していた。
アリーナのレベルで勝てなければ、アルストが勝てるはずもない。HPを確認すると二割まで減少している。
咄嗟の判断で後方に移動していなければ、DPを喰らっていてもおかしくはないだろう。
「……と、とりあえず!」
アルストは今できることをやることにした。
フレイムを放ちパラディホース──ではなく、周囲の木々を狙い始めた。
当然ながら火の手があちらこちらから上がり、ボスフロアは一気に茜色に染まってしまう。
煙も溢れかえり、アルストの視界を遮っていく。
『……ギュルルルルゥゥ』
視界を遮られているのはアルストだけではなく、パラディホースも同じだった。
アリーナを捉えていた双眸は火と煙を捉えており、駆動音もなくなり、落としていた盾はすでに左手に収まっている。
自分から動く気配はなく、敵の気配を探るように動きを止めているようだった。
一方のアルストは、
この時だけは、ボスフロアが広がったことに感謝していたアルストである。
壁際まで移動したアルストは、アリーナを下ろして声を掛けた。
「アリーナさん! 大丈夫ですか!」
「…………あー、うん、なんとか」
アリーナからの返答に安堵したアルストだったが、安心するには早すぎる。危機はまだ無くなっていないのだ。
「ま、まずは回復薬を」
「そうだね…………ふぅ。あー、マジでDP喰らったかと思っちゃったよ」
「……い、意外と余裕なんですね」
「そう見える? 実はそうでもないんだよねー」
パラディホースの実力にはアリーナも驚愕している。
蓄積されるのは雷属性だけなのか、他の属性も蓄積されていれば同じように反撃されてしまうのではないか。
「……俺に考えがあります」
「……何かに気づいたの?」
攻略方になるのかは分からないが、何も考えずに攻撃を繰り返すよりも少しはマシではないかという程度の考えなのだが、それでもアルストは口にする。
「アリーナさんは、水属性の攻撃を持っていますか?」
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