第76話:アリーナとレアボスモンスター②
アルストとは違い、アリーナは久しぶりの戦闘に興奮していた。
攻略組を引退したとはいえ、以前は最前線で天上のラストルームを満喫していたのだから、歯応えのある戦闘に興奮しないわけがない。
時折ソロで素材を集めにバベルに上ることもあったが、そこはすでにアリーナが攻略したことのある階層であり、目新しさは感じられなかった。
それが今はどうだろう。下層とはいえ見たことのないレアボスモンスターと、それも歯応えのある戦闘ができている。
「攻略だけが、醍醐味じゃないわよね!」
アリーナは、笑みを浮かべながらパラディホースと攻防を繰り返していた。
一方のアルストは、どうやってパラディホースの隙をつけるかを考えていた。
アリーナとパラディホースの攻防は、ややアリーナが押しているように見えるが、HPが半分を切った時にどうなるかを考えると気が気ではない。
今のままのアルストでは、パラディホースの前に立つことは死を意味している。それほどの実力差が一人と一匹の間には存在していた。
今のアルストにできること、それはアリーナの攻撃が確実に命中するように援護することである。
「地形を利用すること、それが今の俺にできることじゃないか!」
継続してフレイムを放っているものの、そのダメージはほぼ皆無である。だが、それには一つの狙いがあった。
そして、パラディホースはアルストを敵と見なしているものの、強敵とは見ていないので視界の端にたまに入れる程度の警戒しかしていない。
それこそがアルストの狙いでもあった。
アリーナの態勢を確認しながら、攻撃に転じることができるタイミングを見定める。
「──アリーナさん!」
「はいよ!」
パラディホースがランスを後ろに引いて、突進する構えを見せた直後──アルストはパラディホースの足元にフレイムを殺到させた。
ここに至るまでにも、パラディホースを狙う振りをしてフレイムを放ち続けながら、地面に何度も命中させていた。
それは、タイミングを見て地面を破壊するためである。
駆け出そうと力を込めて一歩を踏み出したパラディホースだったが、その一歩を踏み出した先の地面が陥没したことに気づかなかった。
結果──パラディホースは盛大に転倒する。
『ギュルオアッ!』
「アルスト君、ナイスだわ!」
アルストを見てウインクをしたアリーナは、すぐに視線をパラディホースに戻して銃身を向ける。
「五の弾──サンダーバレット!」
「サンダーボルト!」
『!!!!!!』
麻痺を付与させることが可能な雷属性の攻撃がパラディホースに殺到する。
単発のサンダーボルトとは違い、サンダーバレットはMP《マジックポイント》が尽きるまで連射に次ぐ連射が可能。
アリーナの魔導銃──【賢者の魔銃】は、さらにMPを消費することで通常よりも強力な弾丸を撃ち出すことができる。
アリーナが所持している弾丸は現在一二種類。
MPを消費せずに撃つことができる弾もあるが、今回はより強力な一撃と、麻痺を付与させる必要があると判断してサンダーバレットを選んだ。
「これで半分くらいまでいかないと、マジで化物だわ!」
「これで半分ですか!?」
アルストは勝負を決めようとしているものだとばかり思っていたが、そうではなかった。
パラディホースの耐久力がどれ程のものなのかは分からないが、アルストが今まで戦ってきたレアボスモンスターならば、すでに倒せているだろう。
『──……ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
「やっぱりきたわね!」
「HPは……ま、まだ一本目の七割しか減ってないですよ!」
半分も減っていなかったという事実に、アルストは愕然としてしまう。
「……ふふふ、こんなもんは上層に行けば毎回だよ!」
「上層に行けばって、ここは四階層なんですけど!」
「だからこそ面白いんじゃないのよ!」
ここにいたり、アルストは一つの結論を導き出していた。
「アリーナさんって、戦闘狂ですか?」
「ち、違うわよ!」
『ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
砂煙の中にいたパラディホースがランスを振り回し、砂煙が晴れていく。
現れたパラディホースの双眸はアリーナではなく、アルストを捉えている。
強敵からではなく、微かにでも邪魔をしてくる虫から振り払おうという魂胆だ。
強靭な脚力を駆使して跳び上がると、上空からアルスト目掛けてランスの突き下ろす。
巨体が上空から迫ってくる光景は恐怖以外の何ものでもないのだが、アルストはここが好機だと判断する。
麻痺になることはなかったが、それでも麻痺ダメージは蓄積しているだろう。ならば放つしかない──サンダーボルトを。
「サンダーボルト!」
『!!!!』
上空にいるからこそ、雷雲の間近で威力が最も高い状態で命中させることができる。
そして、アルストの狙いを感じ取ったアリーナもサンダーバレットを撃ち始めた。
それでも止まることのないパラディホースのランスの切っ先がアルストに突き刺さろうというギリギリのタイミングで、攻撃を完全に捨てた全力の回避行動を取る。
紙一重で回避に成功したアルストだったが、ランスは地面に突き刺さるとクレーターを作り出し、その余波が周囲へと広がりを見せた。
「ぐああああああぁぁっ!」
「アルスト君! この──!」
『ギュオオオオララアアァァッ!』
「くそったれえっ!」
アリーナに対して放たれたのは、開戦当初に放たれた飛ぶ刺突である。
即座にブレイクバレットを撃ち出して相殺させた──だが、その中に紛れ込んでいた物体に気づくことができなかった。
パラディホースが右手にしっかりと握っていた巨大なランス、それが飛ぶ刺突に隠されていた。
「嘘でしょ!」
百戦錬磨のアリーナも驚いた攻撃に、回避が一歩分遅れてしまう。
そのせいもあり、直撃は避けられたものの左肩をランスが掠めてHPの二割が削り取られてしまった。
「……こいつは、マズイかも?」
視界に映るアルストのHPを見ながら呟いたアリーナ。
地面にクレーターを作り出した余波で吹き飛ばされただけのアルストだったが、そのHPは残り三割まで減少していた。
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