第68話:アリーナの戦い方

「まずはフレイムを三発」


 杖を向けた先に直線軌道のフレイムを三発。普通のことなのだが、アルストは目を見開いて驚きを露にする。


「は、速い!」


 その速度はアルストやアレッサが放っていたフレイムとは桁違いであり、ボムバードは咄嗟の動きで回避している。

 だが、ボムバードも予想外の出来事が起きた。


 ──ガラガラ。


 天井に着弾したフレイムが瓦礫を産み出し、時間差でボムバードの進路を妨害する。

 慌てて進路を変更するが、その先でも瓦礫が降り注ぐため完全に壁際に移動を強いられた。


「おしまい」


 最後の一発も直線軌道で放ったアリーナのフレイムは、ボムバードを正面から焼き尽くして光の粒子に変えてしまった。

 アルストは上空にいるボムバードに対して、追い詰めてからサンダーボルトを放ち上空で仕留めている。

 対してアリーナは瓦礫を利用して下へ下へと移動させ、最後は地面すれすれで、それもフレイムだけで仕留めてしまった。

 目に見えている地形だけを利用するのではなく、地形を変えて利用する。それが、アリーナが口にしたということだ。


「三階層のボスは、攻撃の時以外ほとんど飛んでいるわ。魔導師マジシャンがソロで挑むなら、確実に魔法を当てる方法を考えるのが先決よ」

「それが、今のですか?」

「方法の一つ、といったところかしら。地形を利用する、仲間と協力する、他のモンスターを利用する、やりようは色々よ。ソロなら仲間と協力は無理でしょうけど、目の前にある全てのものを利用するのが大事だわ」

「……全てのもの、ですか」


 地形だけではなく、モンスターすらも利用しろとアリーナは口にする。

 ボスモンスターを相手にする場合は他のモンスターが出てくることはないのだから、やはり地形を利用するのが一番だろうと考えた。


「言っておくけど、今後はボスフロアにもモンスターが出ることも考えなさいよ」

「えっ! ボスフロアにはボスモンスターだけじゃないんですか?」


 アルストの考えていることが分かったのか、アリーナはボスフロアについて言及する。


「下層では他のモンスターは出てこないけど、上層に進めば他のモンスターも一緒に現れるわ。ソロで挑むなら、色々と考えることは多いわよー」

「……はい」

「崩した天井や壁は自動的に直るから、バンバンやりなさい」


 そこからはアルストを中心にボムバードを討伐していき、アリーナは指示を出すだけで見守り続けた。

 天井にフレイムを当てて瓦礫が落ちてくるタイミング、壁際では壁を崩したりもしてボムバードの進路を妨害していく。

 サンダーボルトは使わずに、フレイムだけで仕留めていく。

 最初は逃げられてしまい反撃に遭う場面もあったが、その回数も徐々に少なくなり、目標討伐数に達した時には確実に倒すことができるようになっていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ど、どうでしょう」


 アルストはアリーナの評価を確認する。


「うーん……まあ、及第点かな」

「ギリギリですね!」

「まあ、今日始めたばかりでこれなら、ケッツクァルトルくらいなら倒せるんじゃないの?」

「それは、いきなり過ぎませんか? 結構何もできずに負けたんですけど?」


 まともに攻撃を当てられたのは先制攻撃のサンダーボルトのみ。他は巧みに回避されてしまい、最終的には何もできずにDPに追い込まれた。

 ボムバードとケッツクァルトルは違う。実力は当然ながら、その動き方や攻撃方法も全く違う。

 今のアルストに、ケッツクァルトルを倒せるという自信は全くなかった。


「アルスト君が目指しているのは何かな?」


 アリーナからの突然の質問に、アルストは首を傾げてしまう。


「何を突然」

「いいから、アルスト君が目指しているのは何かな?」

「何って、魔導剣術士マジックソードです」

「それじゃあ、私は何を利用しろと言ったかしら?」

「地形、仲間、モンスター。目の前にあるものを全て利用しろと」

「その通り。だから利用したらいいのよ」

「利用って、何をですか?」

「ふっふふーっ」

「……ア、アリーナさんをですか!?」

「大正解!」


 まさかの提案に、アルストは驚きを隠せない。

 アリーナはというと、さも当然といった感じで飄々としている。


「今はソロじゃないんだし、それに目指すべきは魔導剣術士でしょ? だったら、通過点である魔導師のレベル上げはさっさと終わらせた方がいいわよ」

「それは、そうですけど……」

「エレナちゃんのゴールドを稼ぐ時にはアルスト君が手助けしたんだから、アルスト君を手助けする人も必要でしょ?」


 ウインクしながらそう言ってくるアリーナに、アルストは感謝の念しかなかった。


「……何から何まで、ありがとうございます」

「うふふ、その代わりに珍しい素材アイテムが出たら教えてね。それで鍛冶をするのも楽しそうだから」

「あっ、いくつかありますよ?」

「ほほう。それはアーカイブに戻ったらすぐに話を聞かせてもらおうかしら?」


 ものすごい食いつきに驚きながらも、アルストはすぐに了承する。


「それじゃあ、せっかくだしケッツクァルトルまで倒しちゃいましょうか」

「はい」


 アリーナ自らが自分を利用しろと言って、ケッツクァルトル討伐まで口にしてくれる。

 この話に乗らない手はないので、二人はそのままボスフロアまで進むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る