第67話:反省会

 視界が復活したアルストが見たものは、アーカイブの入口だった。

 ぱっと見では何が変わっているのか分からないが、視界の右上に今まではなかった数字が表示されており、それが一秒ごとに減っていく。


「……あー、ペナルティが解ける時間か」


 数字は180分からどんどんと減っている。これが0になればペナルティが解けるのだ。


「うーん、これからどうしようかなぁ」

「──あれ、もう戻ってきたの?」


 初めてのDPにどうしようか考えていると、後ろから声を掛けられたので振り返る。


「アリーナさんはバベルですか?」


 武具店でしか会ったことのないアリーナを外で見掛けると変な違和感を覚えてしまう。


「たまには体を動かそうと思ってねー」

「そうでしたか。俺は、今しがたDPを喰らいました」

「あら、そうなのね。もしかして、あれだったの?」

「あれ? ……あぁ、違いますよ。単純にボスモンスターに負けた……はずです」


 アリーナの言わんとしていることを理解して最初は口にしていたが、ケッツクァルトルがレアボスモンスターではないという確証もなかったので歯切れの悪い答えになってしまう。


「何て名前のモンスター?」

「ケッツクァルトルです」

「なら、普通だわね。たしか三階層だったかしら?」

「そうです。魔法を上手く当てきれなくて、空からの攻撃にやられてしまいました」


 頭を掻きながらそう口にしたアルストを見て、アリーナはなにかを考えているようだった。

 そして、アルストにとっては予想外の提案が口にされる。


「……私が魔導師マジシャンの戦い方を教えてあげようか?」

「えっ? でも、アリーナさんは鍛冶師スミスですよね?」

「私の固有能力は鍛冶師と魔導師なのよ。だから、魔導師のレベルもカンストしてるし、少しくらいなら教えてあげられるわよ?」


 アリーナは鍛冶師と魔導師のレベルを最高まで上げており、発展職もすでに最高まで上げていた。

 本来の職業は複合職なのだが、普段は勧誘を避けるために鍛冶師になっている。


「でも、バベルに行くんですよね?」

「体を動かすのが目的だったから、アルスト君に教えるのもあまり変わらないのよ」

「……だったら、お願いしてもいいですか?」


 後衛職は他のゲームでもほとんど選んだことのない職種である。戦い方を知っている人から教えてもらえるのは、アルストにとってとてもありがたいことだった。


「もちろん! それじゃあ、まずはクエスト屋に行って何かしらクエストでも受けてこようか。経験値が入らないんじゃあ、クエストくらいこなさなきゃね」

「ありがとうございます」


 アルストはアリーナとパーティを組んでクエスト屋に向かった。


 ※※※※


 クエストボードを眺めながら、赤い依頼書がなかったことに内心でガッカリしながらも、クリアしても経験値が入らないのであればもったいないかと気持ちを切り替える。


「あっ! これなんかどうかしら?」

「これは……ボムバードの討伐クエストですね」

「飛んでるモンスターを相手に教えてあげた方がいいんじゃないかな」


 アルストがケッツクァルトルに負けたことを知っているアリーナだからこその提案である。

 そんな心遣いを無下にするわけもなく、アルストは二つ返事で了承した。

 クエストを受けた二人は、その足でバベルへと向かった。


 ※※※※


 最短ルートでやって来た三階層。

 その間にもアリーナはアルストに魔導師の戦い方を教えていたのだが、アルストの戦い方を見て大きな溜息をついていた。


「ダメダメじゃないの! なんで魔導師で接近戦してるのよ!」

「いや、こっちの方が戦いやすいので」

「それじゃあ魔導師をやってる意味がないじゃないの! あぁー、もう! ちょっと待ってなさいよ!」


 魔法で進路を限定し撃ち落とすまではよかったが、炎木の杖で殴り掛かったあたりからアリーナの表情が曇り始めていた。

 そして、スマッシュバードを放った時点から怒声が飛び出している。

 そして、アリーナは見本を見せるためにその場で自らが魔導師に転職した。


「フレイムを放つ上で三発を同時に放つのと、分けて放つことはできてるんだから、もう少し考えて戦うべきよ」

「うーん、これでも考えてるんですよ? ちゃんと進路を限定したりしてますし」

「アルスト君はボムバードを倒す時、どこまで考えてる?」

「どこまで、ですか? ……もちろん倒すところまでです。今ある攻撃手段で、確実に倒す方法を」

「それじゃあ、その中にも組み込みましょう」

「地形を利用する、ですか?」


 そう言われて、アルストは三階層のフロアを見渡した。

 一階層から二階層と同じ廃遺跡。地面には崩れた瓦礫などが積み重なっている場所もあるので地形を利用することも可能だろう。

 だが、飛んでいるモンスターを倒すために利用できそうなものなど、天井には何も見当たらない。


「……どうするんですか?」

「それじゃあ、見ていてね」


 そう言ったアリーナは自身の杖を握りしめ、迫りくるボムバードの前に立ちふさがった。

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