第69話:再戦①

 前回と同じくケッツクァルトルはボスフロアの中央に鎮座しており、双眸が入口を見つめている。

 手も足も出なかった記憶が蘇り、アルストは炎木の杖を自然と強く握りしめてしまう。


「大丈夫だよ」

「……はい」


 緊張しているアルストに対して、アリーナは快活に笑いながら声を掛ける。

 元攻略組で、現攻略組リーダーが復帰を待望しているアリーナと一緒なのだから、アルストがDPを喰らったとしてもアリーナならば三階層くらい問題はないだろう。

 ならば、アルストがやることは一つ――再びのDP覚悟で真っ向からケッツクァルトルに挑むことである。

 ボスフロアに足を踏み入れた直後、ケッツクァルトルの頭上に名前とHPが表示されたので、アルストは前回同様に先制攻撃を放つ。

 ただ、今回はサンダーボルトではなくフレイム三連発だ。

 速度重視の直線軌道で放たれたフレイムは、三発全てが着弾。


「ギュルルアアアアアアァァッ!」


 サンダーボルトを当てた時よりもダメージはやや大きい。だが、それでも一割程度のダメージなのでまだまだ先は長い。

 ダメージを受けたことによりケッツクァルトルは翼を羽ばたかせて上昇、天井スレスレを移動しながら攻撃のタイミングを図っている。


「もういっちょう!」

「ギュルアッ!」


 アルストは一発のフレイムを直線軌道でケッツクァルトルめがけて放つが難なく回避されてしまう。

 逃げた先を見届けたアルストは、次に進行方向を限定させるために二発のフレイムを天井とケッツクァルトルめがけて放つ。

 最初に天井へ着弾したフレイムが瓦礫を落とし始めると、ケッツクァルトルはその場所を避けて回避行動を取る。

 続けざまにケッツクァルトルを直接狙うフレイムと、天井を狙うフレイムに分けて放ちながら壁際、それも角に追い込んでいくアルスト。

 そのことに気づいていないケッツクァルトルは悠然と飛び続け、視線は壁ではなくアルストに固定されている。

 そして数秒後――自身の視界が影に隠れて薄暗くなったことに気づいたケッツクァルトルだったが、時すでに遅く移動範囲が狭まり瓦礫が翼に降り注ぐ事態になっていた。

 たまらず急降下を行い下から広い場所に移動しようとしたのだが、待ち構えていたのは炎木の杖を構えるアルスト。

 切っ先はケッツクァルトルを正面から捉えており、顕現させたフレイム三発も準備完了していた。


「吹き飛べ!」


 突っ込んでくるケッツクァルトルと、撃ち出されたフレイム。

 正面衝突からくる破壊力はただフレイムを当てるだけよりも大きなダメージをケッツクァルトルにもたらした。

 ふらつくケッツクァルトルとすれ違いざま、アルストは炎木の杖を大上段に構え、脳天にパワーボムを炸裂させる。

 七割まで減少したHPに手応えを感じながら、ケッツクァルトルの背中にフレイムを放つ。

 だが、急上昇したケッツクァルトルには当たらず、もう一度下まで降ろす作業となる。


「繰り返し上等!」


 攻略方法が分かれば繰り返しも当然と、フレイムで進行方向を制限しようとするが、ケッツクァルトルも黙ってはいない。

 ひらりと宙を舞ったのは緑の羽根。

 複数の風の刃が顕現すると、アルストめがけて殺到する。

 相殺はままならない。ならばと全力で駆け出し自力での回避を行う。

 その中でもフレイムを放ち瓦礫を作りながらケッツクァルトルを下へ下へと向かわせる。


「一発、いっとくか!」


 フレイムを警戒しているケッツクァルトルを角へ移動させるのが難しいと判断したアルストは、壁際まで移動させるとサンダーボルトを放つ。

 ケッツクァルトルの上空から狙い撃ちできるサンダーボルトは、確実に命中して六割まで減少。

 ダメージに合わせて攻撃が止んだタイミングを見て再びフレイムを放つ。

 今度はすぐに追撃するのではなく、さらに進行方向を誘導して確実に当てられるようにする。


「ギュルルアアアアアアァァッ!」


 移動しながら、緑の羽根に加えて赤の羽根を舞い散らせるケッツクァルトル。

 前回はここでやられてしまった。

 風の刃と火の玉。

 風の刃だけならなんとか回避できたが、火の玉まで加わると自力での回避は不可能。

 ならばどうするか──アルストは声を上げる。


「アリーナさん! 防御だけお願いできますか!」

「おっ! ようやく私の出番だね、はいはーい」


 壁にもたれていたアリーナが背中を離すと、高速のフレイムを火の玉と風の刃にぶつけ始める。

 三発が限度のフレイムなのだが、速度が尋常じゃなく速いので、着弾と同時に追加を放っていくと、三発以上を放っているように錯覚してしまう。


「……これが、レベルの差かよ」


 呆気にとられていたアルストだったが、アリーナのおかげで攻撃に専念できると判断。

 フレイムを放ち続けて、ようやく地面すれすれまで降ろすことに成功した。


「ギュルアッ?」

「負けるかああああああっ!」


 三発のフレイム。アリーナを真似て着弾と同時に次のフレイムを顕現させて限界まで放ち続ける。

 合計七発のフレイムが着弾したケッツクァルトルのHPは四割まで減少すると、急上昇しながら、初めて黄色の羽根が舞い始めた。

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