第10話:レアドロップ

 激戦を終えたアルストは、息も絶え絶えの状態で地べたに腰掛けた。

 豪奢な一室を模したフロアは、気づけば元の古びた遺跡に戻っている。

 HPヒットポイントは救済処置のおかげで全快しているものの、すぐには動きたくないので周囲を見回してみたが、モンスターの気配はどこにもなかった。


「……つ、疲れたー」


 そして、座り込んでいた姿勢から完全に大の字となる。

 いまだに残る光の粒子を見上げながら、頭の中にはファンファーレが流れ出した。


『おめでとうございます。アルスト様のレベルが9に上がりました。新しいスキルを習得しました。ステイタスをご確認ください』

『おめでとうございます。剣術士ソードメイトのレベルが9に上がりました』

「……新しいスキル?」


 ゴルイドと戦う前は6だったレベルが一気に9まで上がったことに驚き体を起こし、さらにスキルの習得という聞いたことのない報告が流れてきた。

 そして次の電子音にさらなる驚きを覚えてしまう。


『レアボスモンスター:武神ゴルイド討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。MVP賞を獲得しました。ラストアタック賞を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』


 アルストの予想は当たっていた。


「今、レアボスモンスターって言ったか?」


 そして慌ててアイテムボックスを確認すると、Newの表示が付いているアイテムが三つ。

 素材アイテムが二つで【ゴルイドの剛骨】と【折れた魔剣(ディアブル)】、そして魔導師マジシャン専用装備の【一角獣ユニコーン銀角ぎんかく】。

 残念ながら今のアルストが装備できる物ではないが、剣術士のレベル上げが終われば魔術師に転職する予定なので、これはこれで嬉しい装備だった。


「素材アイテムは使い道がよく分からないな。……ん? 素材ってことは、アリーナさんに聞けば何か分かるかも」


 鍛冶師であるアリーナなら素材を活かす方法を知っているかもしれない。

 フレンド登録を済ませていたことでDMダイレクトメールも送れる状態である。

 アルストは聞くだけ聞いてみようと思い軽い気持ちでメールを送った。


「……よし、送信完了っと。とりあえずステイタスを見てみるか」


 気になるのは新しいスキルの習得である。

 指示通りにステイタスを見てみると、スキル欄にNewの表示が一つ確認できる。


「えっと……なんだこれ、ヒューマンブレイダー?」


 効果欄を見てみると、【種族が人形ひとがたに類するモンスターに大ダメージを与える】と書かれていた。


「……なんか、今さら感が満載だな」


 苦笑を浮かべつつも次に目を通したのが割り振りポイントである。

 レベルが一気に3も上がったので15の割り振りポイントがあるのだ。

 ゴルイドに苦戦したこともあり純粋に戦闘に関連するステイタスに割り振ろうとしたのだが、ふととある考えが頭をよぎった。


「……運を上げたから、レアボスモンスターに出会えたのか?」


 あまりにも不確定要素が多いその疑問に、アルストは首を横に振る。

 ステイタスを力の項目で上げようと指が伸びるのだが、その指が直前で止まってしまう。


「…………い、一旦保留にしとくか」


 別に今すぐ上げなくてはいけないわけじゃないのだ。そう思い直したアルストは十分に休めたこともあり立ち上がると、二階層に上がることなくアーカイブへと戻っていった。


 ※※※※


 アーカイブの入口間近になった時、視界に入った端でメールマークが点滅した。


「アリーナさんからの返信だな。どれどれ……」


 内容に目を通したアルストは首を傾げてしまう。


「今から会えないか、場所はお店で、とにかく会いたい、切実に! ……えっ、何これ?」


 若干の不安を抱きながらも、お世話になったこともありアルストは簡単な返信で済ませてアリーナの店へと足を向けた。


 ※※※※


 到着早々、アルストはアリーナに腕を引かれて奥の部屋に連れていかれると、椅子とお茶まで出されてしまい自然とそのまま腰掛けてしまう。

 お茶を一口飲んでいる間に店は閉店されてしまい、誰も入ってこれなくなってしまった。


「……えっと、アリーナさん?」

「アルスト君!」

「は、はい!」

「その素材、見せてくれませんか!」

「えっ、あぁ、いいですけど」

ゴールドはいくらでも払います! だから……って、えっ?」


 アリーナは口を開けたまま固まってしまった。


「いや、Gとかいりませんよ。見せたらいいんですよね?」

「……い、いいの?」

「はい。ていうかこれ、そんなに高価なものなんですか?」


 レアアイテムだということはアルストでも分かるのだが、どれだけ価値があるのかまでは分からない。アリーナがGを積むくらいなのだから相当価値が高いのだろうが、アルストはGをもらうつもりなどなかった。


「ここに出したらいいんですか?」

「お、お願いします!」


 アルストは目の前の机に【ゴルイドの剛骨】と【折れた魔剣(ディアブル)】を乗せる。

 ゴクリ、とアリーナが唾を飲み込む音が聞こえた。


「こ、これが、これ程のものが、レアボスモンスターからドロップしたのね!」

「あの、アリーナさん。レアボスモンスターの情報は攻略サイトにも載ってなかったんですけど、あれってなんだったんですか?」


 アリーナはレアボスモンスターのことを知っているような口ぶりだった。意外とプレイヤー内では有名なのかと疑ってしまう。


「……アルスト君。レアボスモンスターに出会ったのは秘密にしておいた方がいいよ」

「えっ?」


 だが、アリーナからの言葉──忠告に、アルストは唖然としてしまう。


「レアボスモンスターの情報は、ほとんどのプレイヤーが秘匿にしているの」

「そ、それはどうしてですか?」

「……その素材が物語ってるわ」

「これって、そんなにすごい素材なんですか? 俺にはよく分からなくって」


【折れた魔剣(ディアブル)】は再生できればディアブルという魔剣ができるのだと予想を立てることはできるものの、【ゴルイドの剛骨】に関して言えば全く予想が立たない。

 鍛冶師ならば何かしら武具に仕上げることもできるのだろうが、その性能がどのようになるのかもさっぱりである。


「……アリーナさん、よければこの素材譲りましょうか?」

「ゆ、譲るって! アルスト君はバカなのか!」

「いや、今日はお世話になりましたし、そのお礼もかねて──」

「お礼の域を越えちゃうわよ!」


 そこまで怒鳴らなくても、とアルストは思ったが自分よりも長くプレイしているアリーナの言葉は正しいのだろうと思い黙ることにした。


「……それじゃあ、【ゴルイドの剛骨】でアルスト君に剣を作らせてちょうだい」

「えっ! いいんですか!」

「私も鍛冶師の端くれだからね。本音を言うとこれで武器を作ってみたいってことなんだけど、他に持っていくと情報が漏れる可能性もあるからね」

「そういえば、こんなものも一緒にドロップしたんですけど」


 そう言いながら、アルストは素材ではない一角獣の銀角を取り出した。

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