第9話:ボス戦②
死んだ。プレイ初日で
死んでしまったらどうなるのだろうか。アーカイブのどこかに転移するのだろうか。
そんなことを考えていたアルストは、現状を把握するために目を開いた。
「…………あ、あれ?」
確かに振り下ろされた剣と斧。回避行動を取っていなかったので確実にヒットしているはずなのだが、目の前の光景はその事実を明らかに否定していた。
薄く透明な膜──バリアと言えばいいのだろうか、それがアルストとゴルイドの間に顕現し、振り下ろされた剣と斧の一撃を防いでいる。
何が起こったのか分からないアルストの頭の中に、レベルアップの時と同じ電子音が聞こえてきた。
『初心者救済処置が発動しました。救済処置は残り二回です。初心者救済処置が発動しました。救済処置は残り二回です』
そういえば、とアルストは説明書の一文を思い返していた。
プレイを始めたばかりのプレイヤーには電子音が語った救済処置がある。その内容とは──
【プレイ開始から72時間以内のDPに値するダメージを受けた場合、三回まではダメージを無力化し
アルストは自身のHPが確かに全快していることを確認した。
さらにこのような記述もある。
【加えて、一分間の無敵時間が付与されます】
これしかない、とアルストは確信した。
アリーナが嘘をついていなければ、本来ならアルスト一人でも倒すことができたはずの一階層のボスモンスター。
おそらくアリーナは嘘などついていないだろう。なんとなくではあるが、アルストは確信を持ってそう判断を下していた。
ならば、目の前のボスモンスターはイレギュラー以外のなにものでもない。
この機会を無駄にするなど、許されることではなかった。
『無敵時間が開始されます。3──2──1──スタートです』
「うおおおおおおおおぉぉっ!」
開始と同時に雄叫びを上げる。
連撃からのスキル発動でゴルイドのHPを一気に減らしていく。
当然、ゴルイドからの攻撃も再開されているものの、アルストの体にはバリアが顕現しているため全ての攻撃が弾かれていく。
『残り50秒です』
カウントダウンが頭の中に響いていく。
まだまだ時間はある。繰り返される猛攻に、ゴルイドは距離を取ろうと後退りするのだが、この好機を逃すわけにはいかないアルストが前進、ゴルイドが後退した分を埋めながらさらなる追撃を加えていく。
『残り40秒です』
ゴルイドのHPが六割を切ると顔を上げて咆哮、四本の腕を後ろに反らせると、反動をつけた強烈な四連撃がアルストへ襲いかかる。
直撃は明確な死へと誘う一撃になるだろうが、今のアルストにはバリアが存在している。
当然ながらゴルイドの四連撃は弾き返されてしまう。
『残り30秒です』
無敵時間も残り半分。
アルストはゴルイドを逃がさないためにもほぼ密着した状態でアルスター3を振り続けた。
斬、斬、斬、斬、斬斬斬斬斬斬斬斬!
パワーボムを交えながら斬撃の嵐を巻き起こし、時に爆発がゴルイドを体を焼いていく。
『残り20秒です』
ゴルイドのHPが四割を切った時、今までとは異なる動きを見せ始めた。
身体能力ではどうしても敵わず、大きく跳躍されてしまい距離を取られると、剣、斧、槍を手放したゴルイドが四本の腕全てで一本の杖を握りしめる。
『残り10秒です』
時間は少ない。
アルストは全力で駆け出すとアルスター3を背中に回して白い光を纏わせる。
走りながらスマッシュバードの予備動作を終わらせた。
「スマッシュバード!」
『オオオオオオオオォォッ!』
放たれた白い大斬撃。
撃ち出された深紅の巨大なファイアボール。
接触と同時に先ほどとは桁違いの大爆発が室内を包み込んだ。
熱波が荒れ狂う中を、アルストは真っ直ぐにその中心地目掛けて駆けていく。粉塵が舞い踊り視界は悪い。そして──
『無敵時間が終了しました。ダメージに気をつけてください』
無敵時間の終了を知らせる電子音。
体を覆っていたバリアが消えて生身となる。
それでも、アルストの疾駆は止まらない。
粉塵を抜ける間際に大きく跳躍。アルスター3を頭上に構えると赤い光が顕現した。
「パワーボム!」
そのまま粉塵を抜けた先、確かにゴルイドは立ち尽くしている。
このまま大上段斬りを振り下ろそうとしたアルストだったが──ゴルイドから杖による渾身の一撃が振り抜かれた。
逃げようにも空中で身動きが取れないアルストは、見るも無惨な肉塊に変わり果てる──はずだった。
『初心者救済処置が発動しました。救済処置は残り一回です。初心者救済処置が発動しました。救済処置は残り一回です』
再び電子音による救済処置の発動が宣告される。
吹き飛ばされるはずのアルストの体は、バリアに守られることで空中に存在したままだった。
「び、びびったじゃねえかああああああぁぁっ!」
再開された重力に従うままの降下。
大上段からの一撃は、今日一番の爆発を巻き起こしてゴルイドのHPを削り取ると、残り二割を切った。
『無敵時間が開始されます。3──2──1──スタートです』
「これで、終わりだああああああぁぁっ!」
ラストスパートを掛けたアルストの猛攻にゴルイドは成す術なく、無敵時間を20秒も残した時点で勝負を決することができた。
『オォォ、ォォォ……ォ……』
力なく漏れ出る声が聞こえなくなった瞬間、ゴルイドの体は光に包まれると粒子もなってフロア全体を包み込んだのだった。
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