第106話 Alice in wonderland 21:おかしな視線
先生がまた迷宮に行ってしまって、私は暇をしていた。もちろん、学生の本分は勉強である。
学院にも毎日欠かさずやってきて、夜遅くまで帰ってからも勉強に励む。
私は決して天才ではない。先生と比較すれば、ただの凡才でしかない。そんな事実を認識しているからこそ、私は毎日頑張ることができていた。
「……」
図書館でただ一人。
奥の隅の方で、ノートを広げて教科書を読み込む。先生が書いた教科書は初学者にもわかりやすいように書かれている。でもそのページをめくればめくるほど、より高度な内容になっていって、本当に難しくなってしまう。
そして私は先生との会話を思い出す。
「先生はどうやって勉強していますか?」
「俺はそうだな。読めば大体一度で理解できる」
「え……一度で、ですか?」
「あぁ」
参考にならないとはこのことか。
先生は天才的な頭脳を持っているとは知っていた。でもまさか、一度だけ読めば理解できて、さらには知識として保有できるなんて、ずるい。
本当にずるいと思う。
私がどれだけ勉強したと思っているんだっ!
とまぁ……愚痴を言っても仕方がない。先生とはそう言う人なのだ。
でもそんな彼は全く嫌味ぽくなかった。ただ淡々と事実を言っている。
そんな感じだった。
そうして私は先生のいない日々を、毎日過ごしていた。寂しいと思ったけど、今は慣れてきてしまったのか、一人でも割と平気だった。それに、今は友達もいたりするので、それほど寂しいわけではない。
それでもやはり……先生がいない日々は、どこか物足りない感じだった。
「はぁ……」
「アリス様。お帰りなさいませ」
「うん」
自室に戻るとサリアが紅茶を持ってきてくれる。
「今日はいかがでしたか?」
「……まぁ普通かな」
「そうですか」
「先生もいないから、特にすることもないし」
「学生の本分は勉強では?」
「それは……そうだけど。だから頑張ってるのっ!」
正論を言われてしまうので、思わずちょっと声を上げてしまう。
「ふふ。冗談ですよ」
不適に笑うサリア。
彼女は時折、いたずらをしてやったり、と言うような笑顔を見せる。と言ってもそれは信頼の証だからとても嬉しい。
ただ淡々と身の回りのお世話をされても、やっぱり空虚でしかない。そんな中、サリアだけがこうして近い距離でいてくれる。
先生はいなくても、彼女がいるだけでも私は嬉しかった。
「そう言えば……」
「どうかしたの?」
「オスカー王子の謹慎が解けたとか」
「あっそ」
「冷たいですね」
「先生にしたことを考えれば、ね」
この時はそんな風に考えていた。
でも私は知らなかった。もう少しで、大きな異変が起ころうとしているということに。
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