第85話 学院攻略戦 2



 その夜。俺たちは近くにある建物の中で休むことになった。元々は商業施設だったが、今はこうして騎士団の作戦司令部なども兼ねている。そんな建物の一室に今はいる。


 が、その前に俺とフィーはあることの確認に来ていた。それは三大貴族の当主の遺体を確認することだった。その部屋は錬金術により結界が張られていた。そして体全体を布で隠されているそれを、アーデルの立会いのもと確認することになった。



「損傷がひどいので、一概に本人とは言えませんが……一応、バッジや身体的特徴からご本人と判断していますが、エルさんは知覚系の能力を持っていますよね?」

「あぁ。すぐに視よう。三大当主は面識もある。固有領域パードナルフィールドは覚えている。任せて欲しい」

「……」



 フィーは相変わらずずっと黙っている。今の俺にそんな彼女にかける言葉はなかった。とりあえず俺が視ないことには始まらない。そうして俺はその場に並んでいる死体を元素眼ディコーディングサイトで確認する。



「いや……これは……」

「何かわかりましたか?」

「巧妙に偽装されている……といっても、外側だけだが、これは本人たちの死体ではないな……」

「エル、本当にッ!!?」



 後ろに控えていたフィーが、俺のすぐ側までやってくる。その双眸には涙が溜まっているも、どこか必死にそれに耐えているようにも思えた。



「あぁ。こんなことで嘘はつかない。これは別の人間の遺体だ。おそらく三大貴族たちはどこかに隠れているのだろう。しかしこの緊急事態に、こんなことをしてまで隠れる理由はなんだ? 反逆の時を狙っているのか?」

「どうでしょう……現状は、僕たち騎士団でもうまくつかめていません」

「そうか……いや、今は考えても仕方ないな」

「情報収集などはこちらに任せてください。エルさんと、フィーさんは十分にお休みになってください」

「あぁ。ありがとう。フィー、行こう」

「うん……」



 そうして俺とフィーはその場を去っていくのだった。



 ◇



 それから俺とフィーは同じ部屋にいた。初めは別々の部屋にしようという話だったが、震えているフィーを見て俺は思わず声をかけたのだ。



「フィー、大丈夫か?」

「うん……なんとか……でもよかった。まだ生きているとわかっただけでも、本当に……」

「そうだな。大切な人が亡くなるのは辛いよな」

「うん……エル、ありがとうね」

「いや俺は何もしていないが……」

「ううん。エルがいなかったら、わからなかったでしょ? 私はきっとみんなが死んだと思って悲しんでいたと思うから」

「そうか……」



 部屋の中にあるソファーに座り、俺の方にはフィーが寄りかかってくる。彼女はまだ震えているものの、俺がぎゅっと手を握ってやると嬉しそうに俺の方を向いて微笑んでそれを享受する。



「なぁフィー」

「何、エル?」

「この件が終わったら、俺はしばらく迷宮探索はやめようと思う」

「なんで? やる気だったじゃない」

「そうだな。やる気だったさ。でもなこういう状況になったからこそ、俺はもう少しここで地盤を固める必要があると思う。それに迷宮探索自体はレイフたちがやってくれるだろうからな」

「そういえば研究は進んでいるの?」

「いやあまり進んでいないな。それも理由だ。俺は農作物の研究がしたいし、それに研究費は未だに出ている。それにを無駄にしないためにもやることをやらないとな」

「ふふ。エルは次に何をするのかしら?」

「……今の所の予定は、完全独立型人工知能の移植と寒冷地に強い農作物を遺伝子操作して作る予定だ」

「え……なんか急にすごい話が出てきてびっくりしてるんだけど……」

「元々迷宮探索をする前あたりから考えていたことだ。プロトたちに宿っている人工知能だが、あれは野菜だと色々と問題があるからな。手頃な人形にでも転写できたらいいと思っている。そうすれば労働力の確保とかもできるしな。あとは妹とも話していたんだが、そろそろ本格的に品種改良に乗り出そうかと考えている。今の課題は寒冷地に強い農作物をどうやって作るかだ。そもそも農作物は寒冷地で育つようにはできていない。やはり暖かい地方の方が収穫量は多い。そんな状況を打破するべく、俺は新しい何かを提示したいと思っているんだが……」



 と、俺はフィーに今後の展望について話すのだが何やらポカーンとしている。



「おい。どうしたフィー」

「いやその……あなたって相変わらずなのね……」

「俺は昔からこうだろう? 長い付き合いのフィーならわかっているだろ?」

「いやそれはそうなんだけど……改めてあなたの異常性に気がついていね。いやでもそれが天才たりうる証拠なのかも……」

「天才とかそんなものはどうでもいい。俺の目標は世界最強の農家になることだ」

「そうね……入試の面接した時にも同じことを言っていたわね……本当に尊敬するわ……いや本当に……」

「ははは。褒めても何も出ないぞ?」

「いやまぁ褒めてるというか、なんというか……」



 俺はたちはそのまま雑談をして、眠りについた。


 俺が今語った夢を叶えるためにも現状を早くどうにかしなければならない。

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