第四章 王国内乱編-When she cry-
第83話 王都、燃ゆ
「セレーナ、詳しく話をッ!」
「えぇ……分かりましたわ……」
俺とフィーはセレーナの後を追う。彼女たちはどうやら現在、神秘派の連中と戦っているらしい。神秘派。今は革命軍と称して、この王国内でクーデターを計画し実行。この行為は一昨日から始まり、王都は瞬く間に火の海へ。現在はこれでも鎮火している方で、セレーナは最後に生きている人間がいないか確認しに来ていたらしい。
また騎士団も内部分裂し、半数以上が革命軍にいる。残っている人間は主力から外れた人間ばかりで、特に新人が多く、古参の騎士はほぼ全て革命軍に属しているとのことだ。
「それで、首謀者がアリスだと……?」
「えぇ。公式の声明文が発表されましたわ。でも、実際のところは違うと思いますの。おそらくオスカー王子がことの真の首謀者だと」
「あのアホ王子か……」
オスカー王子。俺とフィーを嵌めようとして、失敗したただのアホだ。そういえばあいつも神秘派で何かをしようとしていたが、まさかここまでのことをするとは……さすがに予想もしていなかった。
確かにあのアホならこの惨状を招きかねない。でもアリスはどうしてた? あの夜、アリスが俺のところを訪ねて来たことがおそらく……関係あるのだろう。
くそッ! こうなると分かっていれば、俺は……。
だがそう思っていても未来など誰にもわからない。どれほど天才的な能力を有していようとも、未来を見据えるなど不可能なのだから。
「それと、アルスフィーラ先生。気を確かに持って聞いてください」
「……」
「三大貴族の現当主は、全員が死亡。それと先生の両親もすでに……」
「そ……んな……」
フィーがその場に倒れ込もうとするも、隣で一緒に歩いていた俺はそれをしっかりと支える。
フィーの両親が死んでいる。その事実は俺の胸にもまた、否応無しにのしかかる。俺は少なからずフィーの両親とは親交があった。二人とも人格者でとてもいい人間だった。だというのに、死んでいる? また……俺の周囲で人が死ぬのか。
そしてフィーは呆然とした様子で、再び歩き始める。王都の中心を外れると、そこには燃え盛る炎はなかった。燃えているのは中央から北部にかけてで、南の方はすでに消化されているようだった。
「そう……二人とも、死んだのね……」
「はい。遺体はこちらで回収はしてあります。でも……」
「欠損がひどいの?」
「……火傷と四肢の損傷がありますの。その……見ないほうがいいですわ」
「そうね。でも両親だと確認しないと。顔だけは見るわ」
「はい……分かりましたわ」
そう話しているセレーナもまた、辛そうな表情をしていた。そうだ。ブリュー家の当主はセレーナの父だ。そして三大貴族の当主が死んでいるということは、セレーナも……父親を無くしたのだ。
セレーナとフィー。共に最愛の肉親を亡くした二人。その一方で俺は家族は大丈夫なのかと心配する。それに……愛すべき野菜たちも、もしかしたら焼け死んでいるのかもしれない。俺は来たるべき事実に備えて、覚悟を決めるのだった。
◇
「ここですわ」
たどり着いたのは、騎士団の寮だった。今はここが最前線の本部らしく、騎士がまばらに存在している。そしてその中には見知った顔もあった。
「フレッド!!」
「師匠!? 迷宮からお帰りに!!?」
「状況は……!!?」
「……お話はこちらで、致しましょう。
「
全員が戦闘のスペシャリストであり、おそらく戦闘技能だけ見れば俺よりも上だろう。
それがこうなっていると言うことは……俺は嫌な予感を抱きながら、進んでいくのだった。
「どうも。エルウィード・ウィリスさんですね。私は、アーデル・ベルツと言います。
「俺もエルで構わない。それで、他の方は……」
「僕以外の方は、革命軍についています……」
「やはり、そうだったか……」
アーデル・ベルツ。見るからに優しそうな人だった。柔和な表情に、サラサラとした黒髪。
だが、それにしても……
そして俺は三人で話している最中に気がついた。今残っている騎士団のメンツは妙に若いと言うことだった。
「若い人ばかり残っているが?」
「師匠、実は……古参の方々ほど革命軍入りしているのです。若い衆はむしろ、ほぼ残っています」
「騎士団の中で何かあったのか?」
「いえ……私は全く気が付きませんでした」
「アーデルの方はどうだったんだ?
「いや、僕の方も特に……みなさんとてもいい人でした。だと言うのに……王国民がこんなにも死ぬことを許容するなんて……信じられません」
「そう……か」
謎は残る。そもそも、どうして革命が起きたのか? 現体制に不満でもあったのか? だが概ね、王国は平和に機能していた。やはりこれは……あの女が時間稼ぎと言っていたように……何かしらの介入があったと考えてしかるべきか……。
「そういえば、首謀者はアリス王女だったな。正式な発表なのか?」
「……信じたくはありませんが、本当なのです。師匠と王女が仲がいいのは知っていますが、現在それが事実としか確認できません。王女の玉座には現在、アリス王女が座っているようです」
「次期国王、この場合は女王か……それを狙っての革命なのか?」
「状況的に考えるに……そのようです」
「そうか……」
考えれば考えるほどありえない。俺は確かにアリスの全てを知らない。知っているのは表面的な部分かもしれない。でもあいつがずっと玉座を狙っていて、国民を殺すことを是とする思想の持ち主とは到底思えなかった。必ず背後に何かある……そう思う。
「エルさんも考えているようですが、僕もこれはアリス王女の独断とは思えません。背後に何者かがいるのは間違いないかと」
「アーデルはアリスのことを知っているのか?」
「えぇ。仕事柄、王城にはよくいたので。でも、彼女がクーデターを起こして、王の座を奪うなどとは……考えられません。おそらくオスカー王子が絡んでいるかと。これは今の騎士団の総意です。王女に乗り込み、オスカー王子を討つべきです」
「……ちなみに、王はどうなった?」
「処刑されました……二日前だったはずです」
「そうか……本気なんだな……」
「えぇ。あとは私たちを掃討すれば、向こうの革命は完了です。勝てば官軍。勝利こそが、全てを肯定するのです。ですが、こんな理不尽なことは許せません。我々はこんな非道な暴力に屈するべきではない……エルさんは、そう思いませんか?」
「激しく同意だ。俺たちの王国をこれ以上蹂躙されてはならない。俺も最前線に加えてほしい。戦闘は苦手だが、よろしく頼む」
「いえいえ。フレッドよりも強いのでしょう? これでもフレッドは騎士団屈指の実力者です。歓迎ですよ、エルさん。ともに王国を取り戻しましょう」
こうして俺は騎士団に協力することになった。
絶対に革命など……許すわけにはいかない。それが例え、誰の意志であっても。
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