第47話 外の世界を知りたかった少女、あるいは蜘蛛
「エリサー、あまり無茶しちゃダメよー!」
「はーい!」
私の名前はエリサ。今年で12歳になったので、私は森に行けるようになった。いつもはお兄ちゃんたちが森で遊んでいるのを見て、羨ましいと思っていた。
でも今は私も森に行ける。
とても楽しみだ。
「あ、お兄ちゃん!」
「エリサ。そうか、お前も来れるようになったんだな」
「うん! 一緒に遊ぼ!」
「あぁ!」
そしてお兄ちゃんと二人で森でたくさん遊びました。木登りをしたり、虫を観察したり、松ぼっくりを投げ合ったりと二人で色々としました。
とても、とても楽しかったです。
「いただきまーす!!」
「ふふ。エリサはいつもよく食べるわね」
「母さんに似たんじゃないか?」
「あらやだ。あなたに似たんですよ」
お父さんとお母さんはとても仲がいいです。お兄ちゃんもニコニコと笑っています。私もそれを見て、ニコリと微笑んでいました。
私の家族はみんな仲が良くて、そしてとても暖かい。
自慢の家族なのです。
次の日、私は一人で森に行くことにしました。お兄ちゃんは勉強があるとかで、来れないみたいだから。
「あれ……?」
森に入ると、一人の男の人? 女の人? よく分からないけど、白い長い髪をした人が歩いていました。真っ黒な服を着ていて、肌と髪は真っ白。私の村にこんな人はいません。それにとても……綺麗だと思いました。
「あ……あの」
「ん? 何か用かい、お嬢さん」
「天使様ですか?」
「え?」
「だって……とても綺麗だから」
「はははは、天使ね。いや、私は天使ではないよ。ただの人間さ、まだ……ね」
「ふーん?」
よく分からないけど、その人は私と二人で遊んでくれました。そしてなんとその人は……魔法使いだったのです。
「魔法を見るのは初めて?」
「はい……魔法を使えるのは、この世界でも限られた人だけだって……」
「いや。本質はそうじゃない。僕たちは
「わ、私も魔法使いになれるの?」
「もちろんさ。なってみたいのかい?」
「うん! ローゼンクロイツさんみたいになりたい!」
「ははは。エリサは可愛いね」
その魔法使いの人は、ローゼンクロイツという名前だと教えてくれた。でも性別は教えてくれなかった。「男か女かだって? そんなのは些細な問題さ。私はローゼンクロイツ。それ以上でも、それ以下でもないよ、エリサ」と言っていました。
でも確かに性別はどうでも良かったのです。
私は新しい刺激を求めていました。ずっとこの村で過ごして、この村で死んでいくのかと漠然と幼いながらに思っていました。でも、ローゼンクロイツさんが来てくれました。
それからはとても刺激的な日々でした。魔法を教えてもらい、私も少し程度ですが、魔法を使えるようになりました。
「やった! できたよ! ローゼンクロイツさん!」
「すごいね。エリサはすごい才能の持ち主だ!」
それから、ローゼンクロイツさんは私の家にも来るようになりました。
「娘がいつもお世話になっています」
「いえいえ。お母様、私こそエリサちゃんと遊べて楽しいです。それに彼女には魔法の才能がありますよ」
「魔法? あの子にそんな? でも、それが分かるってことは……」
「えぇ。私は魔法使いなんです」
「まぁ! まさか、生きている間に魔法使いさんに会えるなんて!」
それからローゼンクロイツさんはお父さんと、お兄ちゃんとも仲良くなり、まるで私の家族が増えたみたいでした。
とても幸せで、満たされた日々でした。
そして次の日も、また次の日も、さらに年月が経過しても、私はローゼンクロイツさんに魔法を教えてもらいました。
「すごいね、エリサは。いつか私も超えるかもしれない」
「ローゼンクロイツさんには敵わないよ」
「外の世界に出れば分かる。君はきっといい魔法使いになれる」
「外の世界……?」
「あぁ。私は旅をしている魔法使いでね。ずっと色々な国を渡り歩いてきた。そして才能のある人を探していたんだ」
「どうして探しているの?」
「……神に近づくためさ」
「神様っているの?」
「いるさ。私の中にも、そして君の中にも。神様はいるよ。でもね、世界には神様なんていないっていう人もいるんだ。だから私たちは証明したいんだよ。この世界には立派な神様がいるってね」
「私たち……? ローゼンクロイツさんには友達がいるの?」
「あぁ、もちろんさ。魔法使いの仲間が沢山いるよ」
「へぇ……魔法使いって沢山いるんだねぇ……」
「エリサは外に出たい?」
「え?」
「君が出たいなら、一緒に旅をしよう。君はもう15歳だ。成人だし、親御さんに言えば、大丈夫だろう」
「私は……」
私は外に出たいのだろうか?
外に出てどうしたいのだろうか?
でも、この村にずっといてどうなる?
ただの、退屈な日々が繰り返されるだけ。ローゼンクロイツさんも数年はここにいるけど、いつかはいなくなる。そうなった時、私はどうなるの?
そう考えると、私の心は決まった。
「行きます」
そして私はローゼンクロイツさんと、旅に出た。
◇
両親は心配していたけど、納得してくれた。ローゼンクロイツさんがいれば安心だと言っていた。
それから私たちは色々な国に行った。水の国に、砂漠の国、山奥にある国に、炎の中にある国、さらには氷の中にある国。世界にはこんな素晴らしいものが広がっているのだと知れて、私は嬉しかった。それにたくさんの魔法使いとも出会えた。その度に私はすごい魔法使いだと、さすがはローゼンクロイツの弟子だと褒められた。
ローゼンクロイツさんは世界的にもすごい魔法使いらしく、私はそれを知った時はさらに誇らしく感じた。
すごい人の元に私はいるのだと……そう思えた。
でも、終わりは唐突だった。いや、終わりじゃない。
それは長い、長い、始まり。気が狂いそうになるような、長い旅の始まり。
「村に戻る?」
「あぁ。エリサももう、18歳だろ? 一度顔を出すべきじゃないかい?」
「そう……そうですね」
ローゼンクロイツさんがそういうので、私は数年ぶりに顔を出すことにしました。
「エリサ! 元気だったか!」
「エリサ、大きくなったわね!」
「エリサ、お前可愛くなったな」
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、みんなが私を褒めてくれた。そしてローゼンクロイツさんもにっこりと微笑んでくれました。
そして夜。寝ようとした時に、それは起きた。
何か異常な、大きな魔法の力を感じたのです。
私は急いでリビングに向かいました。
すると、ぐったりと倒れている家族とローゼンクロイツさんがいたのです……。
「え? これって?」
「エリサ。どうやら、この世界はダメらしい。一度は崩壊を迎えるだろう。でもね、助かる
「何を言っているの……? みんな一緒に行けないの?」
「……何事にも犠牲はつきものさ。それに
「何を……何を言っているの?」
私はあまりの恐怖に後ずさる。こんなローゼンクロイツさんは見たことがない。焦っている? それとも……。
そう考えていると、ローゼンクロイツさんはため息をつくのだった。
「やはり君は……そっち側の人間だったか。仕方ない。せめてもの慈悲だ。君たち家族は一緒にしてあげよう」
「え……?」
そして私の意識はそこで途絶えた。
◇
目が覚めるとそこは知らない場所だった。何も知らない、何も分からない空間。真っ暗で、何もない。でもそんな場所でも何かは見えた。見えていた。それは蠢く……巨大な蜘蛛だった。
ひいいいいっ!!
そう声を出したはずだった。でも声が出ない? そう言えば、やけに視点が高いような?
見ると、私の体には人の手足がなかった。そう……私は巨大な蜘蛛たちよりもはるかに大きい蜘蛛になっていたのだ。
い、いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!
そう叫んでも状況は全く改善しなかった。
そう、何も。何も。
私はそうして何百年もこの暗い場所で生きることになってしまった……。
あれからどれくらいが経過しただろう。ここの蜘蛛たちの正体も分かってきた。この蜘蛛たちは私の言うことを聞いてくれるようで、命令すれば何でもする。外の世界を知りたい私は入ってきた人間の服や物品を集めるように言っていた。そして私の前に集められるそれらを見て、外の世界に憧れた。でも、外には出れない。もう何百年経ったか分からない。死のうと思ったことは数え切れない。でも、死ねない。何も食べないのに、死ねない。私はずっと生きながらえている。
そして上の場所に家族がいるのも、感覚で感じ取っていた。私は魔法を使って、色々とこの施設を探って見てる。でも限界があった。
ただただ、無。
何もできないし、何もすることはない。
そんなある日、異変が起きたのか蜘蛛たちが外に出るようになった。なぜかは分からない。でも外に出て、人を食べているらしい。
人。人間。今の私は人間なのだろうか?
人の心を持って、蜘蛛の体を持つ私は誰なのだろうか?
そしてしばらくすると、この場所に三人の人間が入ってくることに気がついた。その三人は段々とこっちに近づいてくる。そして兄を殺して、父を殺して、母を殺して、ここにやってくる。
でも家族も本望だったに違いない。私は知っていた。家族たちも私と同じように、蜘蛛にされてしまったのだと。
でも、死は救いだ。私は羨ましかった。私も早く、家族の元に逝きたい。
ドアが開く。そしてやってきたのは三人の人間。
あぁ……この中にいる……魔法使いが一人。とても強い力を持っている。彼ならば、私を終わらせてくれるだろう。
だが、急に体の中が熱くなる。
『殺せ。侵入者を殺せ。排除しろ。それがお前の使命だ』
そんな声が聞こえて、私は自分の理性を失った。
でもわずかに残っている理性で、私は彼に問いかけた。
聞こえているはずだ。届いて、届いて欲しい。
『ねぇ……あなたは誰?』
『分かるでしょ? 私が……』
『こっちを見て』
『ねぇ、あなたの名前を教えてくれませんか?』
彼は懸命に戦っていた。この私と戦っていた。
そしてそんな中、私は自分の願いを彼に伝えた。
『ねぇ……私を……殺して』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます