第33話 スクル帝国
スクル帝国。それはカノヴァリア王国のさらに北に広がる土地全てを支配している帝国の名前だ。スクル帝国の力は凄まじく、数百年前の戦争で連戦連勝し領土の拡大を図って今に至る。
カノヴァリア王国は飲み込まれなかったが、その他の王国のほとんどがスクル帝国の支配下となった。と言っても今は厳しい圧政などもなく、普通の大きな国として機能している。俺たちの王国とも普通に貿易とかも行なっているしな。それに、人も帝国に流れたり、王国に流れたり行ったり来たりをしている。
そんな帝国の帝都に、レイフ・アランがいるらしい。
レイフ・アラン。その名前は世界的に有名だ。俗世に疎い俺でも知っている。冒険者という不遇な職に付きながらも、数々の偉業を成し遂げた男。初めは迷宮ではなく、魔物狩りなどを
そして俺たちはその人物に会うために、スクル帝国に向かっていた。
「……はぁ、馬車での移動も慣れたわね」
「揺れるのがちょっと嫌だけどな」
「移動時間は、半日くらいですよね? それなら……」
「あぁ。もうすぐ着くはずだ」
フィー、俺、モニカの三人は馬車に乗り込んで移動していた。最近は移動が多いので疲れるが、仕方ない。これも全て農作物に繋がると思えば、大丈夫だ。それに今は研究を置いておく時期だ。結果が出るのは数ヶ月後になるからちょうどいい。プロトと一号達の世話はリタとアリスに任せた。「任せてくださいっ! 立派な野菜にしてみますっ!」とリタは豪語していていたが、リタはそういう才能があるのだろう。将来は俺と同じように教師になるのも、いい選択かもしれない。
「検問ね。バッジと許可証を出しておきなさい、二人とも」
「分かった」
「分かりました」
帝都の門の前にたどり着いた俺たちは検問へと進んで行く。馬車から降りて金を払い、そして一人ずつ並んで行く。俺たちは協会所属の錬金術師なので、バッジと協会からの許可証が身分証明証になる。
「次の人……って、三人組か。要件は?」
「……これで黙って通してくれない?」
フィーは検問をしている人間に賄賂を渡す。かなりの金だ。心が揺らぐに違いない。
「……錬金術師か。許可証は?」
「はい、三人分」
「確認する。アルスフィーラ・メディス、エルウィード・ウィリス、モニカ・ダン……ん? エルウィード? まさか、
「これ、バッジです。本物ですよ」
俺は碧く輝くバッジを見せつける。そして、相手はそれをみて震え始める。
「ま、まじで?」
「はい。ちょっと野暮用で。詮索はしないでくれると、ありがたいです」
「……分かりました。三人とも、どうぞ」
モニカは亜人だというのに、特に何も言われなかった。俺の連れというのが効いたのだろう。
「うわぁぁああ……大きいですねぇ……」
モニカが感嘆の声をあげる。俺も帝国に来たのは初めてだが、王国よりもはるかにでかい。この帝都は帝国の中心。数多くの王国の上に成り立っている中心なのだ。カノヴァリア王国よりも規模が大きいのは知っていたが、ここまでとは……。
まず建造物の数が違うし、通っている道の数も段違い。極め付けは人の数だ。人口はカノヴァリア王国の数倍。圧倒的な人口密度に俺たちは圧倒される。
「その、これもお祭りじゃないんですよね?」
「そうよ。今日は休日だから多いってのあるけどね」
「フィーさんは慣れているんですね」
「ん? あぁ……仕事柄、よく来るのよ。それに貴族としてもね、パーティーとかあるし」
「エルさんは来たことないんですか?」
「そう言えば、フィーに誘われたこともあったが、あの当時は研究も大詰めだったから来てないな。完全に初めてだ。それで、フィー。まずはどこに行くんだ?」
「協会よ。ここの会長、クラリスに挨拶しないと」
そうして俺たちは人ごみの中を何とか進みながら、スクル帝国の錬金術協会にたどり着いた。
「これが……ここの協会か。でかいな」
俺の感想はデカいという一言に集約される。そう、デカいのだ。カノヴァリア王国は縦に長い感じだ。大きいというよりは、長い感じ。だが、スクル帝国のは横に広く、デカいという感想しか出ない。
横に広く、奥行きもある。だが縦には大きくなく、ざっとみても5階程度だろう。
「さて、行きましょうか」
俺たちが中に入ると、そこはいろんな人でごった返していた。流石は世界で一番人口の多い国。錬金術師の数も世界で一番だ。入った先に受付があり、その左右ではバーというか、カフェのようなものが併設されている。おそらくあそこで情報交換など色々としているのだろう。
「あら? アルスフィーラ様ですか?」
受付の女性がそう言うと、フィーはにっこりと答える。
「えぇ。クラリスは今いる?」
「申し訳ありません。会長は現在留守でして……」
「何かあったの?」
「何でも帝国の西で色々とあったみたいで、その事後処理を。でも明日には戻る予定ですよ」
「そう。分かったわ」
「あ、あの……そちらの二人は? 錬金術師の方なら一応、バッジを見せて欲しいのですが……」
俺たちはさっきの検問の時にバッジを外していたので、今は服の襟に付いていない。いくら顔見知りのフィーの連れでも、確認は大切だろうしな。
俺とモニカはさっと襟にバッジをつける。
モニカは
「も、もしかして……
「あぁ、その通りだ。これで大丈夫だろ?」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!!?? ほ、本当にあの
「あぁ。証拠にほら」
俺は右手からポンと錬成陣なしで薔薇を錬成して受付の女性に渡す。女には花を送れ。ちなみにこれ、フィーの言葉だ。
「あ……え……あ、錬成陣なし……ですか? 本物じゃないですかッ!! さ、サインくださいッ!!」
どこからともなく取り出したサイン色紙とペンを渡され、俺は困惑するも王国で慣れているので手早く済ます。
「はい、どうぞ」
「うひゃあああ……これは家宝にしますッ! ありがとうございますッ!!」
その後、さらに受付の奥から大量の女性がやって来てサインをねだられる。フィーとモニカは「あっちでお茶してるから」と言って消えてしまった。
あぁ……なんだが久しい感覚だが、やはり疲れる……。
俺は数十人のサインを終えると、後ろにはまた別の人だかりが出来ていた。
「本当に
「こんなガキが?」
「いやでも、エルウィード・ウィリスは16歳だろ。このぐらいだろう」
「……確かに雰囲気あるな」
「これが世界最高峰の錬金術師か……」
強面の男から、女性まで先ほどまでガヤガヤと騒いでいた錬金術師たちが俺をジロジロとみてくる。
「あははは……初めまして、エルウィード・ウィリスです……はは」
「おい、喋ったぞ」
「誰か何か聞けよ」
「あんたがいきなさいよ」
「いやここは俺が」
「いや私よ」
迫り来る人の圧に俺は押されるが、面倒なのでその場で錬金術で風を吹かせて全員を一歩下がらせる。
「マジか……」
「今、錬成陣見えたか?」
「いや……でも、身体に刻んでいる可能性も……」
「いや今のはそんな兆候はなかった。身体に刻んでいるものは微かに発光するからな」
「てことは……本物?」
「本物だッ!!」
「
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」」」
こ、これはまた一悶着ありそうだな……とほほ。
そして俺は良くも悪くも、帝国の錬金術師たちに迎えられるのだった。
農作物の神よ、俺を助けてくれ……。
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