第27話 モニカの軌跡 1



 どうも、モニカです。私はエルフという亜人類の一種です。と言っても別に人間とさほど違いはありません。昔は色々とあったみたいですが、今は迫害されたり、差別されたりなどもありません。普通に村で育って、村で生活をしてきました。


 そんな私ですが、村の中では珍しく錬金術の適性がありました。エルフというか、亜人類は総じて錬金術に対する適性が低いのですが、私は幼い頃から錬金術を使うことができました。


「……モニカ、この本をあげよう」

「この本は何? お父さん……?」

「これは、錬金術の本だ。これを読んで勉強しなさい。もっと錬金術が上手くなりたいならね」

「うん!!」


 錬金術は人間のもので、エルフが使うべきではないと考える人もいたけど父は理解してくれていました。私には錬金術の才能があり、その才能を伸ばすべきだと考えてくれたのです。成長した今だから分かりますが、エルフは保守的です。変化を嫌います。そんな中で生まれた私は異物。呪われた子と呼ばれることもありました。それでも両親は私をしっかりと、まっすぐに育ててくれました。


 そして私は18歳になりました。それを機にいい機会だからと、一人暮らしを始めました。私は近い将来、カノヴァリア錬金術学院に通うつもりです。そのためにも今から少しでも一人の生活に慣れておこうと思ったからです。


 錬金術の技量は自分では上手いのかイマイチ分かりません。だって、比較対象がこの村にはいませんから。それでもこの錬金術という不可思議な現象に私の心は囚われていました。あの本にあったように……『錬金術師とは己の真理を探究すべし』。その言葉を私は今でも覚えているし、そう在ろうとしてきました。己の真理が何か分からないけど、私は追求したかった。錬金術というものを。


 そんな私の転機は一年前。カノヴァリア王国で史上二人目の碧星級ブルーステラの錬金術師が誕生したと聞きました。名前はエルウィード・ウィリス。当時の年齢は15歳。信じられません。いまいちピンときませんが、碧星級ブルーステラの偉大さは理解していました。そしてある日、彼の論文のコピーを偶然入手できたのです。


「何これ……信じられない……」


『元素理論をもとにした、錬成陣なしの錬金術の構築理論』


 碧星級ブルーステラの天才は、錬金術の歴史を変えたのです。錬金術の本には、錬成陣と魔力が不可欠だと書いてありました。その基本は何百年も変わっていません。普遍の真実なのです。でも、ここに書いてあるのはそれを覆す内容。私は夢中になって読み込み、寝食を忘れるくらい没頭しました。


 それから一年後。努力なのか、才能なのか、それはよく分からないけど錬成陣なしの錬金術が使えるようになりました。まだまだ拙いけど、彼の理論は正しかったのです。


「きゃああああああああッ!! 巨大蜘蛛ヒュージスパイダーが出たわああああああッ!!」


 その声を合図に、エルフの村は騒然。誰もがこのB級の魔物を倒せる力などないからです。でも、私はやりました。錬金術がどこまで通用するのか、知りたかったのです。すると、あっけなく倒せてしまいました。足元を凍らせて身動きを止めて、脳天に氷柱を一差し。そのあとは炎で死体を燃やしました。


「……モニカ、お前ここまで成長していたのか……」

「私、錬金術上手くなったよ。お父さん」

「あぁ。お前は村を救った英雄だ! やっぱり、お前には大きな才能があったんだ!」


 それから褒められた私は調子に乗りました。ほとんど一人で迷宮から溢れてくる巨大蜘蛛ヒュージスパイダーを対処していたのです。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩で息をするぐらいに疲労困憊。ここ数日は特に量が多く、私でも対処できないほどになって来ました。そんな私に父は言います。


「モニカ、もう少しで王国から錬金術師が来る。それまでの辛抱だ……」

「うん……」



 そして私は念願の人と会うことになります。


「……あの、どちら様ですか?」

「私たちは村長に紹介されて来たの。あなたが、モニカさん?」

「ああ! 父の言っていた錬金術師の方ですね! どうぞ、どうぞ……」

「「失礼します」」


 ドアがノックされたので、出てみるとそこには二人の人がいました。父には無理を言って私の家に錬金術師の方を泊めて貰うことにしました。王国の最先端の錬金術について知りたかったからです。


 そんな私の目の前にいるのは、白金プラチナの長髪の男性と金髪ロングの女性が立っていました。どちらも容姿が整っていて、錬金術師はこんなものなのかな? と思いました。


 それから男性の方が私の家の修繕をしてくれました。でも、錬成陣なしでした。


 あれ? 錬成陣なしって、普通なのかな? でもあの論文が出てからまだ一年近くだし……そんなはずは……まさか……この人は……。


「え? 終わったんですか?」

「はい。確かめてください」

「ほんとだ、直ってる。でも錬成陣は……?」

「私とフィーは錬成陣なしで出来ます」

「……も、もしかしてエルウィード・ウィリスさんですか?」


 高鳴る心臓を抑えながら、私は聞いてみました。


 すると……。


「そうです。私がエルウィード・ウィリスで、こっちがアルスフィーラ・メディス」

「どうも〜」

「ええええええぇぇええ!! どっちも超有名人じゃないですか!!!? そんな人がこの村に……凄すぎて目眩が……」



 エルウィード・ウィリスにアルスフィーラ・メディス。お二人は錬金術の業界でも超有名人。エルフの村に住んでいる私でも知っているくらいに。


 碧星級ブルースステラの錬金術師に、白金プラチナの錬金術師。どちらも最高峰のランクです。そんな人たちが来てくれるなんて、夢にも思いませんでした。


 私はそんな二人に恐縮ですが、自分で育てた農作物で料理を作って出しました。口に合うといいけど……そう思っていると予想外の反応が返って来たのです。


「う……美味いッ!!! モニカさん! これはどこで育てて……」

「あ、私が作っているんですよ? お口にあったのなら幸いです。それとモニカでいいですよ、私もエルさんとフィーさんと呼んでもいいですか?」

「も、もちろんだ! それよりもこれだが……」


 それからはずっと私の育て方や肥料は何を使っているのかと、根掘り葉掘り聞かれました。フィーさんは「もう、寝る。そのバカの相手よろしくね」と言って寝てしまいました。


 エルウィード・ウィリスは農家の人間だ。そんな噂は誰でも聞いたことがあるのですが、それはただのやっかみ。あまりの才能にそんな嫉妬じみた噂が流布しているのだと思っていました。でも、話をする限り、エルさんは非常に農作物の知識に詳しいのです。そして、私は意を決して聞いてみました。


「そのぉ……エルさんって、農家の方なんですか?」

「あぁ。俺は由緒正しき農家の血族だ」

「……噂は本当なんですね」

「なんだ、エルフの村にまで俺の噂が? まぁ、信じてくれない奴は多いが俺は正真正銘の農家だ。今までも、そしてこれからも。実は俺の夢はな……」



 エルさんは目を輝かせて語ってくれました。如何に農作物が素晴らしく、そして錬金術がその改良に非常に役立つかと。碧星級ブルースステラの錬金術師になったのも、その延長。農作物を追求していたら、成っていたというのです。やはり天才は天才なのでしょう。でも彼はどこか親しみやすくて、優しい人でした。


 今までは神のような存在、いや錬金術の神様なんだと無意識に思っていました。でも、私よりも二歳年下の無邪気な男の子だと分かるとホッとしました。


「そういえば、モニカは誰かに錬金術を習ったりしたのか? 使えると言っていたが」

「いえ、独学です。この本で勉強しました」


 私は後ろの本棚にある本を持って来ると、エルさんは驚いた顔をします。


「これは古いな……よくこんなものがこの村に」

「古いんですか?」

「あぁ。学院ではもっとアップデートされたものが使われている」

「へぇ。そうなんですね」


 その会話を皮切りに、私は王国のこと、王国での錬金術のことをたくさん聞きました。エルさんは嫌な顔をせずに、ずっと答えてくれたのです。


 そしてこれが後に私の師匠となる、エルウィード・ウィリスとの出会いでした。


 

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