第26話 伝承を探せ
「それで、現状はどうですの?」
「あぁ……それは……」
俺たちは近くのカフェに入った。しかし、周りの人間に見られたり聞かれたりしたらまずいので錬金術で認識阻害の障壁を作る。本当はこのような使用はよくないのだが(最悪の場合ランクの降格処分、または錬金術師としての資格を剥奪)、まぁいいだろう……誰にも迷惑かけないしな。
「まず会長から第六迷宮の攻略を頼まれたんだ」
「どうしてですの?」
「どうやら第六迷宮から
「へぇ……なるほどぉ。で、第10層まで攻略できたんですの?」
「それが聞いてくれよ。第10層の
「は……? 賢者の石を使った、
「あぁ。まず魔力の量が段違いだ。魔力量は体のサイズに比例するとも限らないが、魔物は違うのかもしれない。俺たち3人よりも優にあった。それに
「え、A級……の魔物ですか……騎士団でもA級は何百人と人数を必要としますのに、さ、流石ですわね……」
「いや今回はかなり無理をしたからな。あの後は身体が崩壊しかけた。A級はやはり三人では無理だ、普通はな」
「で、ですわよねー。エルなら何でもできると思っていましたが、流石に限度はあると……」
「俺の魔力の総量が少ないのは知っているだろ? 技量だけならどうにでもなるが、スタミナ切れは一番の欠点だ」
「はぁ……本当に凄い話ですわね。でも、あの農作物しか考えていないエルが、まさかそこまで迷宮攻略に乗り気だなんて……」
セレーナもフィーも勘違いしているが、俺の最終目的は史上最高の農作物を作って世界中に売ることだ。迷宮攻略はその足ががりになる。錬金術の技量がさらに上がれば、プロトや一号たちのようなホムンクルスを容易に生み出せるかもしれない。俺の完全独立型人工知能の研究もさらに進むに違いない。迷宮攻略はそこに繋がっているのだ……ということを早口にセリーナに話すと、はぁ……とため息をつかれる。
「何だか安心しましたわ。やっぱエルはそうでないと!」
「それより本題だが、おとぎ話や空想の物語で魔法が出てくるものを知らないか?」
「魔法、ですの? あの前時代的なものに興味が? 錬金術の下位互換でしょう、あれは」
「とりあえず知っていたら教えてくれ」
「いえ、知りませんわね。私はあまり本には触れてこない人間でしたので。特にそういう空想のお話には……」
「そうか……まぁ、話を聞いてくれて、ありがとな。じゃ、俺はこれで失礼する」
そう言って俺は伝票をスッと取ると二人ぶんの会計を済ませる。
「ちょ、ちょっと! 私が奢るんじゃありませんの!?」
「あれは嘘だ。俺が誘ったことだしな、俺が払うさ」
「もうっ! そういうとこが……」
「ん? 何だって?」
「何でもありません!!」
その後、セレーナは「ふん!」と言って去って行った。うむ。やはり、女心は分からん。
そして俺はとりあえず今日することは全て終わったので、自宅に帰ることにした。
§ § §
「……おかえりなさいませ、あ・な・た?」
ドアを開けて、そして……そっ閉じ。あぁ、俺は疲れているんだ。あれほどの死闘を迷宮でやってきた。
そう、アリスがメイド服を着て俺の家の中に入るなどあり得るわけがない。仮にも王女だぞ? 侍女の格好をするなんておかしいし、俺は確実に家の鍵をかけていた。それに俺の部屋は見られて困るものが多々あるので(農作物の研究資料など)、錬金術で入れないようにもしてある。この扉は俺の鍵がなければ開かない。または合鍵。合鍵……? 俺はそう思って再びドアを開ける。
「……おかえりなさいませ、あ・な・た?」
「何のつもりだ、アリス」
「あら? お気に召しませんでしたか?」
「いやそういう問題じゃない。なぜ、お前が俺の家にいる」
「ご両親に合鍵をもらいましたので」
「……はぁ? そんな嘘を……」
「ほら、これですよ。先生のお部屋のお掃除をさせてくださいと言ったら、くれました。まぁ、先生の許可はとってあると嘘をつきましたが」
「はぁ……不法侵入だぞ」
「まぁまぁ。それに、これを着て待っていたんですよ? 可愛くないですかぁ?」
「は? 侍女の格好だろ? それは可愛い部類に入るのか?」
「世間では流行っているらしいですけど、先生にはダメでしたか。着替えてきます」
そう言ってアリスは走って室内へと入っていく。はぁ……面倒な奴が来たもんだ。不法侵入とかやばいだろ、普通に……。
まぁでも、アリスは別に変なことをしないだろうし、信頼しているのでいいが……それにしても、もう少し方法は選んでほしい。
俺が許すのを知ってやっているんだろうが、色々と疲れるんだ……。
「はいっ! こっちの方がいいですか?」
「あぁ、そうだな」
アリスの服装をテキトーに褒めると、俺はソファーに座り込む。
「はぁ……疲れたぁ……」
「お茶淹れますね」
「分かるのか?」
「お母様に聞きましたので」
「……そうか」
お言葉に甘えて、お茶を入れてもらうことにする。
「はい、どうぞ。先生」
「助かる」
ズズズと熱いお茶を飲む。はぁ……疲れた時にはこれが一番いい。
すると、アリスのやつが隣に座ってくる。近いが、今日は静止する気力もない。このままでいいか。
「先生、オスカーお兄様のこと、すみませんでした」
アリスはそう言って、深々と頭をさげる。
「いや別に……もういいよ。それにアリスは関係ないだろ?」
「いえ、泳がせていたのは事実なので。先生の大切なプロトを攫われたのも見過ごしていましたし」
「あぁ……でも今はあいつも元気にしている。それにアリスも色々と俺のために考えてくれたんだろ? いいさ。むしろ、お前には感謝している」
「……本当ですか?」
「……あぁ」
「怒ってないですか?」
「もちろんだ」
「へへへぇ、良かったぁ!」
満面の笑みで俺を見つめてくるアリス。そうか、こいつは不安だったのか。俺に迷惑をかけたと思って。普段はふざけているが、やはり王族。律儀なやつだ。
「そういえば先生、迷宮の攻略は進んでいるんですか?」
「ん? 知っているのか?」
「はい。会長に聞きました。先生がいないので、どうしているのかなぁ〜と思って色々と探ると第六迷宮に行ったと聞いて」
「なるほど。今は第10層まで攻略した。ただ最下層は分からないな。それに魔物のレベルはB~Aしかいない。大変だよ、実際」
「え……? 先生でも苦労するんですか?」
「そりゃあ俺も人間だからな。人並みに苦労するさ」
「はははぁ……流石、迷宮ですねぇ」
「あ、そういえばアリスはおとぎ話とか知っているか? 魔法が出てくるやつとか」
「はい。その本なら私の部屋にありますけど」
「……まじか!! 明日読みに行ってもいいか!? すぐにでも読みたい!」
「ふふ〜ん。いいですけど、今日……泊めてくれますか?」
ニヤリと笑いながら言うが、泊めるぐらいどうってことはない。フィーも泊まったりしているしな。
「あぁ、いいぞ」
「やったー! じゃあ私、お風呂は入りますねー!」
そうしてスキップをしながら浴室へと消えるアリスを俺は見つめていた。
よし、これで手がかりはつかめた。あとは俺の望む情報があるかどうかだな……。
だが俺はこの後こそが大変なのだと、知ることになる。
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