第16話 リーゼとあそびあそばせ
どうもリーゼです。お兄ちゃんの妹です。私のお兄ちゃんはとってもすごい人で、史上最年少で
両親と姉からは、兄離れをしろと言われますが無理です。それほどまでに私はお兄ちゃん子なのです。
そんな兄ですが、独立するのだと言って出て行き、さらにはフィーさんの隣の部屋に住んでいると言うではないですか!
私、怒っています。お兄ちゃんはずっと私のお兄ちゃんでいて欲しいのに、誰かに取られるとか嫌です。フィーさんはいい人で、錬金術関連でお兄ちゃんを助けてくれていて、私にも優しいので好きです。いつも会うと、「リーゼちゃん、また大きくなった? それにしても可愛いわねぇ。ほら、飴あげる」と言ってお菓子をくれます。そんなフィーさんのことを嫌いになるわけがありませんが、まだ私はお兄ちゃんと遊びたいので、フィーさんにはお兄ちゃんをあげません。あと10年は待って欲しいところです。
それと、最近になってお兄ちゃんが私たちと血が繋がっていないと知りましたが、私は数年前から知っていました。でも、偉大な兄に変わりはありません。
そんな今日は、お兄ちゃんの家に遊びに来ています。予定としては、部屋でまったりとした後に買い物デート。それから工房で研究をする予定です。最近忙しいらしく、あまり会えていなかったので本当に今日は楽しみです。
「お兄ちゃーん! リーゼだよー! 来たよー!」
インターホンを鳴らすと、にっこりと笑いながらお兄ちゃんが出て来ます。
「おぉ! リーゼ! 今日もかわいいなぁ。ささ、入ってくれ」
「うん!」
「それにしても、久しぶりだな」
「そうだねぇ。寂しかったよ、お兄ちゃん!」
「ははは。すまないな、色々と立て込んでいたんだ」
テーブルに着くと紅茶を出してくれます。もちろん、私が好きなやつです。流石はお兄ちゃんです。私のことをよく理解しています。
「それで今日はどうするの、お兄ちゃん?」
「とりあえず、街にでも出るか?」
「うん! お兄ちゃんとデートなんて久しぶりだなぁ」
「よし! では参るか、妹よ!」
「おー!」
そうして二人仲良く手を繋いで街に繰り出します。
中央街。ここはこの王国の中央なのでかなり人が多いです。だからこそぎゅっと手を繋いでいます。この手は離しません。
そして私たちがやって来たのは八百屋。そう、これは調査も兼ねているデートなのです。
私は果物を、お兄ちゃんは野菜をじっと見ます。
「「……」」
そしてスッと目を話すと、ニヤッと二人で視線を交わしてそのまま去って行きます。この行動に何の意味があるのか……それは、見ただけでその農作物の質がわかるか? と言う訓練です。農家たるもの、質を判断する目も必要です。ただ農作業をすればいいもんじゃあ、ないです。私たちが目指しているのは、もっと高いところなのですから!
「さてリーゼ。何か食べたいものとか、あるか?」
「うーん。今日はパフェ食べたい!!」
「そうか、ならいくか! 任せておけ、今日も全て俺のおごりだ」
「ヒュー、流石お兄ちゃん! 持ってますねぇ。へへへ、流石は旦那だぜ!」
「はは、褒めても何も出ないぞ?」
そうして手近なカフェに入ると、私はジャンボパフェを頼みます。農作物は大好きだけど、家でいつも食べているので偶には俗っぽいものも食べたくなります。甘いものは特に好きなので、お兄ちゃんと街に出るときはよくパフェを食べるのです。
「美味いか、リーゼ?」
「うん! 美味しいよ! 一口あげる、はいあーん」
「あーん。うん、美味いな!」
「だよねぇ〜」
カフェで軽く食事をした後は、買い物です。今日は臨時収入があったとかで、何でも買ってくれるらしいです。流石は太っ腹なお兄ちゃん。でも、臨時収入とかなくてもいつも好きなものを買ってくれるので、本当にお兄ちゃんは妹想いのいい兄です。
「何か欲しいものはあるか?」
「えーっとね〜、とりあえず服を見に行こう!」
「了解した」
そうして私たちは洋服屋さんに向かいます。いつもの安いところに向かおうとするとお兄ちゃんが、「今日はもう少し、高いところに行こう」と言うのでついて行きます。
「さて、何が欲しい?」
「えええええぇぇぇ。お兄ちゃん、これって桁が一つ違うよぉおおお」
「いいから、いいから」
そう。桁が一つ違うお店に来てしまいました。目がクラクラします。私は普通の農家の娘。金銭感覚も普通。むしろ節約生活は好きで、高いものは苦手なのです。でも、お兄ちゃんが選べと言うなら……と思ったけど無理です。私には選べません。
「その……お兄ちゃんにコーディネートして欲しいなぁ? なんて?」
「何? いいのか? 俺の自由にしても?」
「それがいい! そうして!」
「任せろ。お前を世界一可愛い妹にしてみせる」
そうして私はお兄ちゃんの着せ替え人形になることに決めました。
「これはどうだ? いや、まだいける。これは? いや、まだ弱い。リーゼのポテンシャルはもっと高いはずだ。これは? よし、トップスはこれで決まりだな。いや待てよ……? 慌てるような時間じゃない。よし、これか?」
「……ははは」
苦笑いしか出ませんが、お兄ちゃんが私を想ってしてくれているのなら構いません。そしてそれから一時間……やっと決まりました。
「よし! 完璧だ!!」
「これが……私?」
結局のところ、私の服装はシンプルなものに落ち着きました。真っ白な純白のワンピースに麦わら帽子。最近は、特に今日は夏と同じぐらい暑いのでこの格好もちょうどいいくらいです。それにしてもこの服って……値札を見ると、おったまげました。この値段だと、数週間は食べるものに困らないほど……流石に悪いなぁと思っていると、すでにお兄ちゃんは会計を済ませてしまいました。
「よし。値札も切ったし、今日はそれを着て帰ろうか」
「……うん! ありがとうお兄ちゃん!!」
思いがけないプレゼントをもらった私はそのまま意気揚々と、歩いて行きます。
私はこんなにも愛されていて幸せ者です。お兄ちゃんには本当に感謝しています。これからもずっと一緒にいれたらいいなと思いながら、私はぴったりと寄り添って歩くのでした。
§ § §
リーゼに服を買った。ワンピースと麦わら帽子だが、かなり高い買い物だった。しかし、最近は教科書の印税とか、何やらで金が結構入っているのでそこまで痛くない。それにずっとリーゼに会えていなかったのだ。これぐらいの出費は当然。むしろ、まだ足りないぐらいだが、あまり高い買い物をするとリーゼが困ってしまうので今日はこれぐらいに。
そしてとうとう、本題だ。俺はリーゼにプロトのことを一切話していない。つまり、リーゼは未だにプロトがハイハイすると思っている。実は最近、プロトは軽く走ることもできる。まだ持続時間は長くないが、それでもかなりの成長だ。
「リーゼ。今から工房に行くが、きっと驚くぞ……」
「へぇ……何か進展でもあったの?」
「あぁ。きっとリーゼなら喜んでくれると思う」
俺はリーゼを地下の工房へと案内する。すると、トコトコと歩いていたプロトがこっちを見ると右手をスッとあげて挨拶をしてきた。
「え!!!? えぇぇえええ!!? あれってプロトだよねぇ!!!? そうだよね!!? どうしちゃったの!!!?」
「実はな……プロトは立てるようになったんだ。歩けるし、ちょっとなら走れる」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!? すごいよ、だって自立型二足歩行術式は後からだと組み込めないって……」
「自然発生したんだ。つまり、俺の完全独立型人工知能は進化するんだ」
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!? やっばいよ、これは! また夢に近づいたんだね! お兄ちゃん!」
「……あぁ!!」
リーゼは驚愕を示すと共に、俺の成果を喜んでくれた。実はリーゼは俺が直々に錬金術を教えていて、正直なところ理論と実践の面でフィーに迫っている。そこらへんの
それと、今は協会所属の錬金術師ではなく、ただの農家の娘なので有名ではないが、おそらく俺と同等かそれ以上の錬金術師になると踏んでいる。
「へぇ〜、すごいね。本当に歩いてる」
「そうだろ? 最近はちょっとだけ走ることもできるし、すごい進歩だ」
「やっぱお兄ちゃんはすごいね!!」
「……ありがとうリーゼ。お前にそう言って貰えると、本当に嬉しいよ」
「えへへ。お兄ちゃんを理解しているのは私だけだからね!」
俺はよしよしとリーゼの頭を撫でる。思えば、遠いところまで来たものだ。幼少期に世界最高の農作物を作ると決めて、錬金術を学び、ここまで来た。初めはバカにされることも多かった。両親にも、姉にも、やめろと言われ続けた。でもリーゼだけはずっと味方してくれていた。幼いリーゼはよくわかっていない頃だとしても、ずっと俺を応援してくれていた。そして、気がつけば共同研究もするようになって今は俺が野菜、リーゼが果物を担当するようになった。リーゼも先日、『林檎みたいだけど、実はぶどう』を完成させている。俺たちはずっとバカにされて来た。できるわけがない、無理だと。それでも、実現して来た。だからこそ、俺たちはこれからも高め合える。
本当に最高の妹を持ったものだ。
と、そんなことを考えているとリーゼのやつが思い出したように話し始める。
「あ! そういえば、昨日学校で変な話を聞いたんだった」
「変な話?」
「うん。なんかね、お兄ちゃんが錬金術の神だって話」
「またそれか……」
「それでね、私は思ったの。お兄ちゃんは錬金術じゃなくて、農作物の神だって。でもみんなにあんまりお兄ちゃんの話はしたくないから、黙っておいたよ」
「それは賢明だな。それにしても、学校にもその噂が広まっているのか……」
「うん。まだ小さな噂程度だけど、貴族の子が確かそう言ってたかなぁ」
「なるほど。リーゼは何もされていないよな?」
「私には別に何もないよ? でもお兄ちゃんは大丈夫なの? 確か神秘派? だっけ……それがお兄ちゃんの邪魔をしているんでしょ?」
「まだ実害は出ていないが、フィーにも会長にも気をつけろと言われたばかりだからな。これは相当に警戒をすべきだな」
「こんなところで計画を邪魔されたくないよねぇ……」
「あぁ。もちろんだ」
それにしても、学校……というか貴族の間にはかなりその噂が広まっているようだな。確か、俺が
「あら? 今日はリーゼちゃんも一緒?」
「あぁ」
「デートしてました! えへん!」
「あら! 可愛い服ね。買ってもらったの?」
「うん!」
「あらあら、まぁまぁ。本当にリーゼちゃんは可愛いわね。飴ちゃんあげるわ」
「わーい! ありがとう!」
フィーはいつもリーゼを可愛がってくれている。だがしかし、あの飴はいつもどこから出てくるんだ? 非常に謎である……。
「あ、それでこれ……招待状。エルに」
「招待状? 誰からだ、フィー」
「見ればわかるわ」
手紙の封筒の裏を見る。やけに綺麗なものだと思ったが、そこには王家の紋章があった。
「これって……」
「そう。オスカー第二王子からの招待よ。プライベートなものだから行かなくてもいいけど……王族の招待を断るのはね……」
「ふむ……」
以前の俺なら一蹴していた。だが、この国で錬金術師として生きるのならば付き合いは大事だと学んだ。それにフィーの顔を潰したくもない。
「わかった。いくよ」
「ありがと、助かるわ。それと、私もいくから大丈夫と思うけど、神秘派には本当に要注意よ」
「あぁ。わかった」
こうして俺は本格的に神秘派の連中と関わることになる。
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