第15話 ようこそ、カノヴァリア錬金術協会へ
アリスから逃げた俺たちは、早速本題に入る。
「実は例の研究、錬金術協会に言ってみたけど……やっぱ誰も理解できないって。でも今後は定期的に研究費としてお金出してくれるって」
「……まじか!? 研究費が出るのか!?」
「うん。ていうか、今まで出ていないのがおかしいのよ。それで会長が手続きしたいから、今日の放課後来いって。空いてる?」
「えぇぇええ……プロトの研究をしたいが、やむを得まい。金は大事だからな」
「それじゃ、また放課後に行くわね。私もついて行くから」
「は? 俺一人でもいいだろ?」
「はぁ……あなた未成年でしょ。保護者か、師匠の証人がいるのよ」
「なるほど。了解した」
「はい、それじゃあよろしくね〜」
そして、俺は自分の研究室へ向かった。
研究費。やはり何事にも金は大事だ。俺がやりたいプロジェクトも何かと金がかかる。いくら稼いでるとはいえ、さらに増えるのはいい事だ。
そうして放課後がやってきた。俺とフィーは二人で並んで歩いてる。この国にある錬金術協会は世界的にも中心的なものであり、かなりでかい。カノヴァリア錬金術協会といえば、皆が知っているほどに知名度が高い。そしてそんな協会は学院から歩いて10分のところにある。両方とも国の中央にあるのだが、まぁそれは当たり前だろう。その方が何かと都合がいいしな。
「そういえば、ノアさんは元気にしているのか?」
「あぁ叔父さん? うん、元気だと思うよ。今日はエルが来るから楽しみだって」
「そうか。それは俺も楽しみだ」
ノア・メディス。フィーの叔父であり、リタの父親である人物だ。彼は次男だったため家督を継いでいないが、数十年前から錬金術協会の会長を務めている。俺が
そして俺は何かと親交があるのだが、ノアさんは話がわかる珍しい人物だ。俺の農作物プロジェクトを聞いたものは誰でも眉をひそめる。特に貴族だとそれが顕著だ。だというのに、ノアさんは初めから俺のプロジェクトを受け入れてくれた。曰く、「目的はどうあれ、錬金術発展の貢献者を尊重しないわけにはいかない」らしい。初めて会った時から何かとお世話になっているが、今回の研究費の件もノアさんが手を回してくれてのだろう。本当にありがたい。
「着いたな」
「えぇ。それじゃあ、最上階に行きましょう」
俺たちはエレベーターに乗って最上階に向かった。本当ならば受付で手続きを済ませる必要があるが、俺とフィーは顔パスだ。受付のお姉さんも、にっこりと笑ってスルーだ。
チン、と音がなると最上階に到着。そして少しだけ歩くと、そこには会長の部屋がある。
コンコンとフィーがノックをする。
「叔父さん、フィーです。エルを連れてきました」
「おぉ! 入ってくれ」
「失礼します」
「……失礼します」
俺とフィーは頭を下げてから、入室する。簡素な部屋だ。本棚と大量の書類。そして机と椅子だけ。ノアさんはずっとここで仕事をしている。また、50代とは思えない容姿で、眼鏡をかけておりパッと見る限りでも非常に賢そうという印象である。まぁ、会長なのだから優秀なのは当たり前なのだが。
俺は早速、そんなノアさんに挨拶をする。
「ノアさん! お久しぶりです」
「これはエルくん。久しぶりだね。どうだい、研究の方は」
「それが実は……」
「ちょっとそれは後にして、今は大事なことがあるでしょ!」
「ははは、フィーは相変わらず真面目だね」
そう笑うとノアさんが書類を出す。
「これにサインをしてくれ。済まないね、研究費の件、遅れてしまって」
「いえ。農家出身の
「そう言ってもらえると本当に助かるよ」
「はい、書き終わりました」
「……うん。大丈夫だね。では来月から、毎月研究費を出そう」
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、ノアさんの目つきが先ほどよりも真面目なものになる。
「それでフィーから聞いたけど、新しい論文があるって?」
「そう! 聞いてよ、叔父さん! エルってば凄いのよ!?」
フィーがかなり興奮している様子でそう言う。そして俺は、持っているカバンから分厚い紙の束を差し出す。
「これです……」
「ほう。完全独立型人工知能の進化、ね」
「はい」
「拝見させてもらおう」
ノアさんはざっと俺の論文に目を通す。と言ってもそんなに時間はかからない。研究のプロセスが膨大なだけで、最後にまとめがしてある。そこにだけ目を通せば、概略は理解できる。
「プロト、とはあの人参だね?」
「はい」
「直立歩行したと」
「はい。間違いありません。今日も工房で元気に歩いていますよ」
「ここの……この記述だが、自立型二足歩行術式が自然発生したとあるけど……」
「今はまだ、可能性段階ですね。もう少し詳しく調べれば、そのプロセスもこちらで操作できるかもしれません」
「つまり、後天的にホムンクルスを改造できると?」
「理論としては、可能ですね」
「うーん。興味深い。しかもホムンクルスを生み出してから、すぐにこの成果か。本当に君には驚かされる」
「恐縮です。ノアさん」
「しかしいつも悪いが……」
「まだ公表できない。そうですよね?」
「あぁ。最近は神秘派の連中の動きが活発でね。フィーから聞いているだろう?」
「はい」
フィーから聞いたことを俺は軽く話すと、ノアさんはさらに情報を加える。
「フィー。お前はあの後すぐに帰っただろう?」
「うん、そうだけど……また何か?」
「どうやら神秘派の連中。本格的にエルくんを、教祖にしようとしているらしい」
「「ええええぇぇ……」」
俺とフィーの声がハモる。俺たちは本当に面倒な奴らだという思いが重なり合った。
「昨年、神秘派筆頭の人間がなくなっただろう? そして今は第二王子が纏めている」
「確かオスカー・カノヴァリアですよね? 本日、アリス王女も同様のことを言っていました」
「うむ。どうやらオスカー王子はかなりやる気みたいだ。君を教祖にするためになら、何でもすると息巻いているらしいよ」
「はぁ……しかし、私は神秘派でも理論派でもありません。農家の人間なので」
「奴らがそこまで聞き分けがいいと、
「そうですね」
俺は何気なく頷いていると、隣のフィーがちょっとだけ顔を青くしている。
「その、叔父さん……何でもするって口外しているのですか?」
「いや、噂程度だ。だが火の無い所に煙は立たない、だろ?」
「……なるほど。エル、あなた農作物がめちゃくちゃにされたらどうする?」
「は? そりゃあ怒るが」
「……ホムンクルスたちが誘拐、または破壊されたら?」
「……は?」
思考が停止する。プロトや一号たちが破壊される? つまり、死ぬってことか? 俺が育ててきた、大切な子どもか? 許せん……そうなったら俺は自分を見失うかもしれない。
「……間違いなくキレるな。腕の一本は飛ばすかもしれん」
「ですよねー。ほら、叔父さん、やばいって! エルを本気にしたら、本当に神秘派の連中は血祭りになるよ! 早く対策を!」
「……フィーに任せよう」
「ええええええええぇぇぇ!! 私にエルが止められるとでも!!? 無理だよ!? エルってば、実戦でも超強いのに!!」
「しかし、現状としてエルくんに次ぐ錬金術師は君しかいない。私も、もう衰えたからね。まぁしっかりと防犯対策などはすることだね」
「はぁ……まぁ、うちのマンションは厳重だから大丈夫だと思うけど……」
それから色々と雑談をして、俺はフィーと一緒に自宅に戻った。帰り道、俺たちは二人でスーパーに立ち寄った。今日はフィーの部屋で一緒にご飯を食べようということになっているからだ。今日は珍しく鍋だ。冬が終わって久しいが、二人で食べるということなので季節外れの鍋にすることにした。
そして、フィーの部屋に行ってから二人で鍋を作って、食べ始める。すると、フィーが口にしたのは意外なことだった。
「今日の新聞見た、エル?」
「いや、基本ニュースの類は知らないな」
「何でも、第三迷宮が攻略されたって」
「へぇ〜、迷宮攻略者が出たのか」
「うん。すごいよね」
「迷宮は本当に意味のわからない代物らしいからな」
フィーが言っている第三迷宮とは、この世界にある世界七迷宮の一つである。膨大に広がる地下施設。そこには大量の魔物がうろついており、なぜか迷宮から出ることはない。そしてその迷宮はロストテクノロジーだと言われている。遥か昔から存在しているも、当時の技術体系では実現できないとされている代物で、迷宮の作成方法は謎であり、過去に失われているとされている。それがロストテクノロジー。諸説には錬金術の一種であると言われているが、それも謎である。だがしかし、第三迷宮攻略ということは最下層にまでたどり着いたということだ。
「それで、迷宮の最下層には何かあったのか?」
「さぁ……そこまでは。でもきっと何かあったと思うよ。ま、それを公表すると思えないけどね」
「なるほどなぁ。で、攻略したのは?」
「レイフ・アラン。超有名な冒険者よ」
「あぁ……それなら頷けるな」
レイフ・アラン。それは冒険者の中でも一番有名な男だ。この世界には冒険者という人間がいるが、それは自称であり、どこかの組織に属しているわけではない。錬金術師のように協会に登録されているわけでもなく、単純にいうならばただの趣味みたいなものだ。生計を立てるのはかなり難しく、冒険者になるものはまずいない。おそらく、錬金術師の半分もいないと思う。たまに錬金術師の中にも冒険者のようなことをする者もいるが、基本的には錬金術で生計を立てる。それほどまでも冒険者とは過酷で、見返りもなく、安定のしないものなのだ。
その中でも冒険者一筋で、世界の迷宮を攻略しようとするものがいた。それがレイフ・アラン。世間の情報に鈍い俺でも知っている名前だ。
きっと迷宮攻略の偉業で一攫千金を得たに違いない。
「ま、私たちには関係ない話ね」
「あぁ。そうだな」
俺はそのまま鍋をぺろっと食べると、そのまま自室へと戻っていくのだった。
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