Baby's Breath

「あ、天音ちゃん! ストップ、脱いじゃダメ!!」


 何の躊躇も無く、上着を脱ごうとする天音、以前、スパリゾートのプールで

 披露してくれた男装女子の秘密兵器、Bホルダーが露わになる、

 俺に裸身を見せまいと、弥生ちゃんとさよりちゃんが天音の前に立ち塞がる。


「天音ちゃん、下着が見えちゃうよ、いくらさおりんモードだって言っても、

 元々は兄妹のカンケイなんだから!」

 さよりちゃんにたしなめられるが、当の天音は涼しい顔をしている、


「何で? お兄ちゃんにはいつも裸、見られてたんだよ……」

 おいおい!天音、あらぬ誤解を招くような事を言うんじゃないっ!


「不潔!!」


「さおりん、いや猪野先輩! これはどう言う事ですか!説明してください」

 弥生ちゃんがワナワナ震えながら俺に詰め寄る、今にも涙がこぼれそうだ、

 楽しいはずの制服ファッションショーが一転して修羅場になる、


「ちょ、ちょっと待ってくれ、弥生ちゃん、誤解だ!

 天音っ!でたらめを言うんじゃない!」


「お兄ちゃん、この部屋で見せたじゃない、僕の胸も、お尻も!」

 確かに男装女子に変身する全てを、この部屋で天音は見せてくれた……

 だけど天音の男装に対する決意に感動した俺は、やましい感情は抱いていない。


 だまって俺達の会話を聞いていた弥生ちゃんが真顔になる。

「やっぱり、見たんだ…… 天音ちゃんの裸、

 私もまだ先輩に見せたことないのに……」

 えっ、それって、俺が見ていいの、弥生ちゃんの裸。


「絶対、駄目っ!! 天音ちゃんは私以外に裸、見せちゃ駄目!!」


「えっ! どうしてなの? さよりちゃん……」

 あ、肝心な事を忘れていた、ダークホースの存在を…… 

 さよりちゃんが覚醒したかもしれない、天音への熱い想いは、

 あのコスプレデート以降。本人以外は暗黙の了解になっている。


 あちらでは天音に詰め寄るさよりちゃん、

 こちらでは弥生ちゃんが俺にじりじりプレッシャーを掛けてくる、

 まるで前門の虎、後門の狼状態だ、どちらも普段は小動物っぽいが……

 弥生ちゃんの怒り顔も可愛いが、今はそんなこと考えている場合じゃない!


「天音! どう収拾つけるつもりだ!! さてはお前、何か企んでいるな……」



 *******



「そうなんですか、子供の頃、一緒にお風呂で裸を見たんですね」


「天音ちゃん、ビックリしたよ、思わず先輩を見損なっちゃう所だった」


「二人ともも早合点なんだから! 弥生ちゃんなんて、

 目からジェラシーの炎を出しそうな勢いだったよ……」


「もう! 恥ずかしいから言わないでよ、天音ちゃん!」


「ところで、さよりちゃんは何で、自分以外、天音の裸見ちゃ駄目なの?」


「えっ、そ、それは!? 道徳的に見て駄目なんです!!当然ですわ」

 天音への想いをごまかそうとするさよりちゃん、

 傍から見て、何とも微笑ましい光景だ。


 良かった、何とか誤解も解けたみたいだ、

 ひとしきり大騒ぎして、みんな喉が渇いたのでいったんブレイク、

 お茶の為、リビングに集合したんだ。


「ごめんね、さおりんの危機回避能力を試したかったんだ……

 何せ、あの南女ダンス部に潜入調査するんだから」

 天音は最初から、俺を試す作戦だったみたいだ、

 制服の吟味も自分たちが楽しむ体と言っていたが、

 本当は俺を心配しての行動なんだろう……


「さあ、みんな、場所を変えて広いリビングでやろうよ!

 制服ファションショー、ギャラリーも呼んであるから……」


 ギャラリーって、一体誰が来るんだ?

 俺達の私的な制服ファッションショーに。

「ピンボーン!」

 その時、来客を知らせるチャイムが鳴り響いた……

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