Innocent World

「猪野 宣人さん……」

 彼女は最初から分かっていた?

 何故、女装を見破られてしまったんだろう……

 沙織ちゃんに扮してから、どんな窮地でも切り抜けてきたはずだ……


 それも一番天然系で、勘の鋭さからは無縁に見える香菜ちゃんに、

 その訳が分からず、俺は混乱してしまった。


「香菜ちゃん、一つだけ教えて貰っていいかな?」

 俺は観念して最大の疑問を口にした。


「どうして俺が女装しているって気付いたの……」

 このピンチから何とかリカバリー出来ないだろうか、

 この場で合宿が終了になりかねない、大会での優勝を目指す為といえ、

 天音達三人以外を欺いていたことには違いはない。

 特に香菜ちゃんとはベットイン未遂までしてかしている、

 彼女は綺麗なお姉さんが好きであって、それが女装だと分かったら、

 キモいだけてなく、立派な逮捕案件だろう。


 香菜ちゃんは無言のままだった、その沈黙が逆に長く感じられた、

 俺の生殺与奪権は彼女に委ねられている。


「おっぱいがいっぱいだったけど、胸が嘘んこだって分かったんだ……」

 香菜ちゃんが屈託のない笑顔で呟いた、


「香菜ね、綺麗なおねいさんの胸、揉み慣れてるから!」

 男がこんなセリフを口走ったらセクハラだが……

 そう言えば香菜ちゃんには何度も、胸を揉まれたっけ、

 インペリテリかイングウェイかって位、胸をスウィープ奏法!

 その指使いに思わず、昇天しそうになったんだ。


「でも香菜ちゃんは俺の事、気持ち悪くないの?」


「ううん、沙織ちゃんは沙織ちゃんだよ、例え嘘おっぱいでも

 綺麗なおねいさんには変りはないし!」


「それにね、お父さんに頼まれたんだ……」

 えっ、お父さんって事は花井住職、

 一体、何を頼まれたんだ?


「沙織ちゃんから目を離すなって」

 花井住職が彼女に頼んでいたなんて……

 そう言われれば符号が合う、香菜ちゃんと同じ部屋、

 合宿の修行も同じペア、花井住職も最初から俺の正体を見破っていた、

 これは偶然ではなく、娘の香菜ちゃんに気付かせるよう仕向けたんだ。


「香菜ちゃん、俺に巫女舞を見せてくれたのにも理由があるんだよね」

 彼女はコクンと頷き、さらに予想外の言葉を呟いた


「今からお父さんのメッセージを言うね……」

 花井住職が俺にメッセージ?


「宣人を導いて欲しい、君の亡くなったお母さんに頼まれたんだ……」


 花井住職が何故、俺の亡くなった母親を知っているんだ!?



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