ライブ・イン・強奪作戦
「香菜ちゃん、これだよ! 俺達の目指す道が分かったんだ……」
「えっ! 沙織ちゃん、ど、どうしたの、俺って?」
喜びのあまり、沙織ちゃんキャラを忘れてしまった……
香菜ちゃんの前で、男に戻ってしまうなんて、どうする俺。
「あ、ああ、俺って言ったかな、私?」
「……」
無言で後ずさる香菜ちゃん、
無情にも不審者を見るような視線が、こちらに注がれる。
最悪だ……完全に気付かれたか?
「香菜ね、実は分かってたんだよ、沙織ちゃんの秘密……」
完バレだ! 一番恐れていた事が起こってしまった、
志半ばで、それも香菜ちゃんに気付かれてしまうなんて……
俺は観念した、静かに目を瞑り、その場にゆっくりと跪いた、
玉砂利が膝に食い込むが、痛みはまったく感じない、
何故か、不思議と清々しい気分になっていた、
俺は何処かで女装を見破って欲しかったのかもしれない……
カミングアウトして楽になりたい、そうだ、
嘘で膨らませたBカップブラの詰め物を取り去るように。
「俺は男だ!」
子供の頃、フェイバリットだったアニメと同じセリフを叫ぶ、
あの女装のシンガーはカミングアウトしても、
コンサートの観客から大喝采で祝福されたんだっけ……
でもそれは物語だからだ、実際はそんな美談は起こらない、
完全な逮捕案件だ、お寺でなくともポクポク、チーンな
末路しか思い浮かばない……
でも言ってしまった、男とカミングアウトしたんだ!
ゾクゾクするような快感の波が全身を駆け上っていく、
変態と罵られてもいい……
最初からこうなる運命なのかも、香菜ちゃんとベットイン未遂の時も、
俺は女装男子の決壊寸前だったんだ。
あの時も紗菜ちゃんのフライパンで撃墜されなければ、
俺は香菜ちゃんのかまくら状のお布団に包まれ、あんな事いいな!
出来たらいいな!的に感情の赴くままだったかもしれない。
これで良かったんだ……
もうゆっくり休みたい……
香菜ちゃんがゴミクズを見るような視線で、
こちらを見ているはずだ……
・
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あれっ?
何も起こらない、何故だ……
観念して俯いたままの顔を上げてみる、
香菜ちゃんはこちらを見据えていた、
ゴミクズではなく、慈愛に満ちた表情で俺に微笑んてくれたんだ、
「だから、最初から分かってたって言ったじゃない……」
彼女は巫女舞の花飾りをクルリと廻しながら、
悪戯っぽい仕草を見せた。
「最初からって、一体、どうして分かったの?」
ふと疑問が湧き上がってきた、
俺は花井姉妹の前で、女装バレするようなミスは犯していないはずだ……
そして彼女は驚くべき名前を呟いた、
「猪野 宣人さん……」
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