つぶやきの音符
「ね、沙織ちゃん、もっと気持ちよくしたげよっか?」
俺の耳元に吐息混じりの言葉が流れこんできた……
一人で露天風呂に浸かろうとしていた矢先のハブニングだ。
もっと気持ちよく? 可憐な美少女の姿にあるまじき、
邪な妄想が俺の脳裏を駆け回る!
「か、香菜ちゃん? 驚かせないで、心臓が止まるかと思ったんだから」
動揺を誤魔化すよう、あえて強めに抗議の声を上げる。
「えへっ! びっくりした? 先回りしてお風呂場に隠れていたんだよ」
顔が見えなくても、無邪気な微笑みを浮かべる彼女を想像出来たんだ、
そんな香菜ちゃんに、邪心を浮かべたことを深く反省した、
もっと気持ちよくって、一緒にお風呂に入るとか、
それ以上の事を妄想してしまった……
「あっ! 今、変な事考えてたんでしょ?
沙織ちゃんってエッチなんだから」
「だって、ベットではあんな事やこんな事をさせようとしたんでしょ?」
恥ずかしさで耳まで真っ赤になるのが、自分でも分かる。
「あれは沙織ちゃんの未遂に終わったけどね……」
香菜ちゃんの部屋であわや、ベットイン事件だ、
間一髪で紗菜ちゃんに阻止されたんだっけ。
「そっちの気持ちよくじゃないよ! まあ沙織ちゃんが望むなら、
続きをしても良いんだけど……」
えっ、別の気持ちよくって何なの?
「お風呂上がったら、本堂の前に来てくれない、
そこで気持ちよい事、沙織ちゃんに教えたげる!」
目隠しを解きながら、彼女が俺に向かってタオルを投げつけてきた。
「じゃあ、沙織ちゃん、約束だよ!」
茫然と立ち尽くす俺を尻目に、お風呂場を立ち去っていった、
つむじ風みたいな女の子だ、いつも俺の心をかき乱す。
皆目見当がつかないが、湯船に浸かりながら考えてみた、
まさか本堂の前でアレな事 ソレな事はしないだろう。
香菜ちゃんも由緒あるお寺の娘なんだから……
妄想にのぼせる前に、お風呂を上がる、
先程までのジャージでなく、美少女に相応しい格好をする、
驚かされてばかりでは男?がすたるからね。
香菜ちゃんが見とれる位、お洒落してみよう!
俺の中で悪戯心が膨れ上がってきたんだ……
香菜ちゃんは大人っぽい女性に憧れるんだっけ、
そこはリサーチ済みだ、紗菜ちゃんに教えて貰ったから。
巨乳は外せないな、持ってきた着替えの中から
秘密兵器を取り出す、
「きょぬーなお姉さんになあれ!」
往年の魔法少女みたいに自分で自分に魔法を掛ける、
照れているようでは、香菜ちゃんに勝てないから……
「待ってなさい、香菜! 大人の魅力で懲らしめてあげる」
自分でも恐ろしくなる位、女の子モード全開で本堂に向かう、
「沙織ちゃん? どうしたの! その格好」
部屋から出た階段の踊り場で、天音達と出くわす、
「まあ、凄く可愛いですわ、沙織さん!」
真菜先輩にもお褒めの言葉を頂く、
よし! 大人の女性代表みたいな真菜さんに認められれば完璧だ。
「せんぱ、いえ沙織ちゃん、何処に行くんですか?
もう食事の時間ですよ」
弥生ちゃんもそんな俺を心配してくれるみたいだ。
「ごめんなさい! 事情があって急いでいるの、
後で食堂に行くから心配しないでください」
沙織ちゃんの秘密について、知っているのはこの中では、
天音と弥生ちゃんだ、特に天音は説明しなくとも、ピンときたみたいだ、
「またお兄ちゃんのおせっかいか……」
俺にだけ聞こえる小声で呟いてくれた。
まいった、すっかりお見通しなんだな……
軽く会釈を交わしてその場を後にする。
先程、雑巾掛けレースをした長い廊下を滑らないように歩く、
はやる気持ちを抑えながら本堂を出て、お寺の正面に到着する。
玉砂利を踏みしめながら辺りを見回す、
「香菜ちゃん、何処にいるの?」
思わず叫んでしまったが、そこに香菜ちゃんの姿は無い、
違う! 正確には一人の少女が佇んでいたんだ……
「香菜ちゃん?」
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