happiness comes in waves
俺と天音、そして歴史研究会の部員全員、最大の目標である
土偶男子フェスの大会優勝を目指す強化合宿が幕を開けた、
合宿第一回目の場所は、花井姉妹の実家である天照寺だ。
お寺の朝は早い、携帯のアラームで何とか目覚める事が出来た、
俺達はゲストではないので当然、早起きだ。
香菜ちゃんと同室ではマズいので、紗菜ちゃんのはからいで、
離れの一部屋を急遽、空けて貰えたが、それも今回だけだ……
今晩は誰かと相部屋にならなければいけない、
一体、誰と相部屋なんだろう?
一人部屋なら良いが、相部屋だと沙織ちゃんモードを維持する為、
気を抜く事が出来ない……
俺は身支度を整えながら、色々思案を巡らせた。
まあ、今は合宿に専念しなければいけない、
そうだ、父が指導者と知った際の花井姉妹の動揺が気になるな、
花井住職が只者でない事は、境内で女装を見破られた時の、
身のこなしで十分すぎる程、分かる。
顧問の八代先生が以前、話していた優勝請負人とは住職の事だろうか?
どちらにしても、短時間で素人集団の俺達が優勝を目指すんだ、
この際、悪魔に魂を売っても構わない……
まあ、悪魔では無く、今回は仏様かもしれないな、
一人、苦笑しつつ、手慣れたルーティーンで沙織ちゃんになる。
合宿のメニューが判らないが、学校指定のジャージに着替える、
ウィッグも激しい動きに対応する為、ずれ防止を万全にする。
ウィッグ専用の固定テープを使う、これは萌衣ちゃんに教えて貰ったんだ、
演目に合わせて、地毛にウィッグを追加する事も多いそうだ、
南女潜入作戦の後も、萌衣ちゃんから良く携帯やメッセアプリで、
やり取りをしているんだ、萌衣ちゃんは長年培ったダンスのノウハウを、
俺こと、沙織ちゃんが中総高校に属するのを知りながら教えてくれる、
俺は只でさえ宣人ではなく、沙織ちゃんとして彼女を騙している事に、
罪悪感を覚えていると言うのに……
「ねえ、萌衣ちゃん、私は歴史研究会の関係者だよ、
そんなに教えて貰ってホントに大丈夫なの?」
何回目かのやり取りの中、萌衣ちゃんに思わず聞いてしまった、
「何、細かいこと気にしてんの! へーき、平気!
だって、さおりんダンス仲間じゃん!ダンス好きに敵も味方もないよ」
彼女が教えてくれた、試合中は全力でぶつかり合うが、
試合が終わったらお互いを称え合うそうだ……
俺は不覚にも携帯越しに泣き出しそうになったんだ、
スポーツマンシップ……
決して綺麗事を言うつもりは無いが、競争相手をリスペクトする事、
これはスポーツだけに限らない、人生のヒューマンレース、
学業、仕事、何事にも勝ち負けはある。
勝者がいれば、同じ数だけ、敗者もいるんだ……
「もしもし? どうしたの、さおりん、急に黙り込んじゃって……」
俺の動揺が携帯越しでも伝わったのか、萌衣ちゃんが心配してくれる、
「う、うん…… 何でもないよ! ありがとう萌衣ちゃん」
彼女にいらぬ心配を掛けまいと、慌てて明るい声を出す。
「私、さおりんとダンスセッションするのが、本当に楽しみなんだよ!
早く一緒に踊れるといいね……」
「えっ、萌衣ちゃん、セッションって、ダンスバトルじゃないの?」
「そうだよ、バトルじゃなく、セッション……
萌衣、ホントはね、試合でも競いあうんじゃなく、
自由に踊って、心から楽しめたら最高なんだけどね」
いつもは勝ち気に見える萌衣ちゃんが、本当の気持ちを覗かせてくれた、
あの嵐の夜に見せた幼い少女の様な姿、勝ち続けなければいけない
南女ダンス部部長としての重圧、彼女は精一杯頑張っているんだ……
「亡くなったお父さんがね、教えてくれた言葉があるんだ、
子供の頃から悲しい時に、その事を思い出すと頑張れるんだ、
これはね、萌衣、今まで誰にも話してないの……」
「萌衣ちゃん……」
俺は何も言えなくなった、何故なら今は沙織ちゃんモードだからだ、
宣人と萌衣ちゃんだけが知っている、あの女神像での上映会、
ビデオレターの中で見た優しそうな印象の男性、
その萌衣ちゃんのお父さんが残してくれた、
彼女を苦しみから守ってきた言葉とは何だ……
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