良かった探し
俺達、歴史研究会最大のライバル、君更津南女子校ダンス部、
創作ダンスの世界では大会常勝校として名高い、
以前、沙織ちゃんとして部活動に潜入調査した際も、
ダンス技能の差に圧倒されてしまったんだ……
その強豪校を束ねる部長の古野谷萌衣、可憐な外観とは裏腹に、
ひとたびスイッチが入ると、ヤクザも顔負けの毒舌を繰り出す、
具無理のマスターの孫、二重人格の狂犬娘だ。
具無理のバイトでも、危うく包丁で刺されそうになったんだっけ、
まあ、お風呂で裸の萌衣ちゃんと鉢合わせしたから自業自得なんだが……
だけど、その毒舌も過去の悲しい出来事が引き起こしていたんだ、
親子三人の幸せな日常が、幼い彼女の一言で崩れ去ってしまった、
その一部始終を俺は知っている……
「お父さんの言葉って……」
電話越しの彼女は黙ったままだ、耐えかねて声を掛けてしまった、
「沙織ちゃん、心配掛けてゴメンね……
お父さんを思い出すと、まだまだ気持ちの整理が出来なくて、
楽しかったことも多いはずなのにね……」
「萌衣ちゃん……」
彼女の胸中を想うと、こちらまで胸が苦しくなってしまう、
俺に出来ることは何か無いのか?
「良かった探しだよ、萌衣ちゃん!」
「えっ!」
思わず言葉にしてしまった……
萌衣ちゃんに以前教えて貰った言葉だ、
良かった探し、最悪の状況化でも良い側面を探す、
別名「パレアナ症候群」とも呼ばれ、悲しい側面から現実逃避して、
心身の安定を図ることだ。
そのマイナス的な呼び方は好きじゃない……
少女パレアナと同じく、大切な肉親を亡くした萌衣ちゃんのことを、
誰が現実逃避だと責められるんだ?
「どうして、沙織ちゃんが良かった探しを知ってるの……」
彼女の驚きが、声だけでも伝わってきた、
思わず、沙織ちゃんが知るはずのない事を叫んでしまった。
「宣人さんに聞いたの……
萌衣ちゃんに教えて貰った素敵な言葉だって」
その場を取り繕うつもりもない、俺の本心を語った。
「宣人さんが? そんな事を……」
「沙織も良かった探し、真似してもいいかな?」
俺はカウンセラーでも精神科医でも何でも無い、
だけど心の傷を負った人に寄り添う事ぐらいは出来る、
「さおりんの良かった探しを発表します! ダララララ! ジャン!」
口からドラムロールの擬音を真似てみた、
「ぷっ、あははっ!」
思わず萌衣ちゃんが吹き出すのが聞こえる。
「第三位、萌衣ちゃんと出会えたこと」
もちろんリップロールを挟み込むのを忘れない、
「第二位、萌衣ちゃんと友達になれたこと」
「沙織ちゃん……」
萌衣ちゃんの気持ちが落ち着いてきたみたいだ……
「さあて、お待ちかねの発表です!
栄えある第一位は!」
ボイスパーカッションに乗せてノンストップだ。
「萌衣ちゃんが今、ここに居てくれること、
生まれて来てくれて本当にありがとう、
奇跡みたいなことなんだよ、沙織と萌衣ちゃんがここに存在しているって、
それが沙織の良かった探し第一位……」
「今までよく頑張ったね、萌衣ちゃん……」
電話越しの萌衣が泣いているのが感じられた、
あの女神像でも涙を見せなかった彼女が……
「沙織ちゃん、あのね……
良かった探し以外に、お父さんが教えてくれた言葉って」
萌衣ちゃんが核心の言葉について語り始めたんだ……
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