双子の約束
紗菜ちゃんの告白の深さに、俺は何も言えなくなってしまった……
由緒あるお寺の跡を継ぐ、何で女の子として生まれてしまったのか、
自分ではどうしようもない事に、彼女は苛まれ続けてきたんだ、
紗菜ちゃんと香菜ちゃん、性格は一見、正反対に見える、
天真爛漫な妹、対しておっとりとした性格の姉、
いつも無邪気すぎる香菜ちゃんを、紗菜ちゃんがたしなめる、
だけどそれは、表層だけしか見ていない他人の解釈だった、
花井姉妹だけではない、一緒に過ごす時間が長い家族、友人についても、
理解出来ているのは、一部分だけではないだろうか?
皆、人生と言う物語では主役は自分で、他は脇役だ、
しかし、立場が変われば、脇役と思っている無数の他人には、
それぞれのストーリーがある、そんな深淵な想いに駆られてしまう。
「紗菜ちゃん、話してくれてありがとう……」
出会えて良かった、心の底からそう思えたんだ、
この瞬間も偶然ではなく、必然なんだ、自分が周りに助けられたように、
俺の役目は、悲しみに沈んだ誰かを助ける事なんじゃないだろうか。
「沙織さん……」
今にも泣き出しそうだった彼女の瞳の中に、明るい光彩が浮かんだ、
「ずっと一人で悩んできて、誰にも言えなかったんです、
私が我慢すれば、それで丸く収まるかなって……」
気持ちを打ち明けて、楽になったんだろう、
紗菜ちゃんにいつもの穏やかな笑顔が戻ってきた、
「だから、香菜ちゃんを好きだって事も隠してたの?」
「え、えっ! 私、そんな事、言ってませんよ、香菜が好きなんて……」
紗菜ちゃんの慌てふためく態度に、思わず苦笑する。
「言わなくても分かるよ、妹じゃない好きでしょ?」
ド直球な物言いは、意地悪ではない、あえて投げかけた、
紗菜ちゃんを救う為なんだ、恋する対象にタブーなんて無い、
それが同性でも構わない、これは天音が男装女子になってから、
教えて貰った事なんだ、固定概念や古い先入観は捨てるべきだ。
暫くの沈黙の後、彼女は大きく頷いた、
「はい、香菜の事が大好きです、たとえそれが許されない道としても……
大人になっても一緒に居たい、香菜は私の全てなんです」
紗菜ちゃんの中で、確実に何かが変わった様に見えた、
そんな決意を感じられる告白だった。
「その気持ちは、変えなくて良いんじゃない?
香菜ちゃんにも伝わると思うよ……」
「でも、香菜にこの気持ちは言えないんです……」
また切ない表情に戻ってしまう、
「この関係を崩したくないんです、私が告白して香菜に拒絶されたら……」
紗菜ちゃんの心配も分かる、想いを伝えて全てが壊れてしまったら、
今のまま、仲の良い姉妹の関係の方が楽なのかもしれない……
「それに、香菜の理想と、私は違っていると思います……」
香菜ちゃんの理想って何?
「香菜が綺麗なお姉さんにベタベタする事はご存じですよね」
そうだ、他の部員や女装の沙織ちゃんの俺とか、
お姉さんのおっぱいにタッチして、紗菜ちゃんによく怒られていた。
「香菜の理想は、自分とそっくりな私じゃないんです……」
紗菜ちゃんがふっ、と深く溜息をついた。
香菜ちゃんが、時折見せる暗い部分、瓜二つな出来の良い姉に対して
抱いているかも知れない気持ち、それは近親憎悪かも知れない、
俺が小学校の頃、双子のクラスメートがいたが、兄弟仲は最悪だった、
何でも子供の頃は仲良しだったが、成長するにつれ、
周りから比較され、お互い対抗心むき出しで仲が悪くなったと聞いた、
年の離れた兄弟には分からない、双子ならではの苦労かもしれない。
「そう、香菜の理想は沙織さん、あなたみたいな人なんです」
紗菜ちゃんの驚愕の言葉に、俺は耳を疑った……。
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