お菓子な世界のワンダーランド

「明日からの合宿に供えて、今日はゆっくり休息を取ってくれ」

 顧問の八代先生が俺達に労いの言葉を掛けてくれた。


「ただし、明日からはのんびりしていられないから覚悟しておくように……」

 八代先生が気になる一言を残しつつ、打ち合わせの為か本堂の奥に立ち去る。


 先程の紗菜ちゃんが沈んだ表情をしていたのも気になる、

 一体、今回の合宿には何が隠されているんだ……

 俺と花井姉妹以外の部員は、その事に気がついていないようで、

 観光気分で、これからのお泊まりについて女の子同士で楽しそうに会話していた。


「真菜先輩、部屋割りは決まっているんですか!

 僕、さよりちゃんと同じ部屋だったらうれしいな……」

 天音が自分の願望丸出しで真菜先輩に質問し始める、


「そうね、部屋割りについては八代先生から何も聞かされていないの、

 部員の自主性に任せるとか、とっさの対応力を養うとか……」

 困り顔で真菜先輩が天音達に答える。


 そう言えば、大会優勝に向けて前にも同じ事を言っていたっけ、

 本当に部員達だけで考えなきゃいけないんだ……


「通常、修行の宿泊者は鍛錬の為、大部屋で雑魚寝が普通です……」

 紗菜ちゃんが申し訳なさそうに呟く、


「ええっ、そんなの無理だよ……」


「困ったなぁ、ゆっくり眠れるか心配……」

 他の部員達が口々に不安を洩らしはじめる。


「大丈夫、今回は特別に本堂脇の部屋を使えるんだよ!」

 香菜ちゃんが得意げな笑顔でみんなに告げる、


「でも香菜、部屋数は二部屋しかないし、

 とても部員全員が止まるのは無理だよ……」

 紗菜ちゃんの言葉に、途端にしゅんとする香菜ちゃん、


「紗菜お姉ちゃん、困ったなぁ、何かいいアイデア無い?」


「そうだ、私達の部屋を使えば良いんじゃない!

 そうすれば四部屋になるし……」

 母屋にある花井姉妹の部屋を使う提案らしい、

 名案だ、それなら充分足りるだろう。


 宿泊するメンバーは、真菜部長、天音、さよりちゃん、弥生ちゃん、

 紗菜ちゃん、香菜ちゃん、お麻理、そして俺こと沙織ちゃん、総勢八名だ、

 一部屋二人で、平等になるようにくじ引きで決める、


「やった、さよりちゃんと一緒の部屋だ!」

 天音がガッツポーズを決める、くじ運の強い奴だ。


「真菜さん、よろしくね!」

 二部屋目はお麻理と真菜先輩のお姉さんコンビだ。


「弥生ちゃん、私の部屋だけど大丈夫?」


「もちろん大丈夫だよ、紗菜ちゃんといっぱいお話したかったんだ、

 今から楽しみだな……」

 三部屋目は紗菜ちゃんと弥生ちゃん、二人ともおとなしめな所が、

 結構良いコンビかもしれない……


 と言うことは、残る四部屋目は?


「わぁい、綺麗な沙織ちゃんと一緒だぁ、私のベットで寝ようね!」

 香菜ちゃんが飛び跳ねながら全身で喜びを表現する、

 トレードマークの右側で結わえた髪の毛がピョコンと揺れた。

 えっ!一緒のベットで寝るって、最強美少女の香菜ちゃんと?


 天照寺修行初日から、強烈な煩悩を押さえられるだろうか、俺……








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