咲かせてはいけない花 (紗菜の独白)

 


「全て同じって事、時には残酷なんだよ、お姉ちゃん……」

 子供の頃、香菜に言われた言葉が何故、今蘇るの……


 妹の香菜、私の可愛い理解者だと思っていた。

 この世界で唯一の理解者……


 子供の頃からいつも一緒、お洋服も一緒、大好きなお人形も一緒、

 好きになる物全て一緒、何故なんだろう? 

 きっと私達は一つの人格だったんじゃないかな……

 神様の気まぐれで二つに分かれたんだ。


 そうでなければ苦しすぎる……

 私は何で女の子として生まれてきたんだろう……

 幼い頃は、分からなかった……

 宗派とか、お寺の後継ぎとか、物心ついて理解出来るようになったんだ。

 檀家の人に面と向かって言われた言葉が……


「跡継ぎが居なくて大変ですね……」


 そうだ、双子の姉妹として生まれた事がまるで罪みたいに。

 私は香菜を守りたかった……

 香菜の屈託のない笑顔を曇らせたくなかった……


 私が将来、結婚すればいい、婿になってくれる男性を迎え入れれば、

 天照寺は存続出来るんだ。


 長女としての勤めを果たす……

 自分の気持ちを押し殺しても、それが私の宿命なんだ。

 だけど何故なんだろう?

 涙が止めどなく溢れてくるのは……

 苦しい、苦しい、苦しい、

 訳が分からない振りをしていた方が気が楽だ。


 本当の理由は、とっくに分かっているんだ……


 私は香菜が好き、妹としてではなく、このまま、二人で居たい。

 香菜の唇、香菜の笑顔、香菜の……

 私は異常なのかな、いつも不安なの、本当は香菜の気持ちを知りたいの。

 香菜は何でも、話してくれる、好意を感じた男の子の事も包み隠さず。


「そうなんだ、香菜が気に入った人なら素敵なんだろうね!」

 笑顔で話を合わせながらも、私の心は乱れてしまうの……

 私の心を悟られてはいけない。

 この気持ちは咲かせてはいけない花。

 秘めた想いが咲かないように。

 春を見送る小鳥のように……


 お願い、もう少しだけ、このままでいさせて……

 それ以外、何も望まないから。


 もしも本当に永遠があるなら……

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