あなたのやり方でだきしめて
「宣人…… 本当にあなたなの?」
何があっても俺を見捨てないと宣言したばかりだったが、
お麻理の表情に驚きと戸惑いが深く彩るのが分かった。
「今の俺は傍から見れば異常かもしれない……
だけど近しい人達には、この姿を理解して欲しいんだ、
これも偽りのない俺だと……」
布団を穿き取って全てをさらけ出したんだ、
捨て身の行動だった、今後の活動を考えたら、
お麻理にも、この女装男子化を隠しておく訳にはいかない。
だけど一つだけ保険を掛けておいた、それが俺の作戦だ、
デリカシーと言う名の保険を。
女装男子には変わりないが、メイクもウィッグも変えて
沙織ちゃんモードではなく、新たな女の子を提案してみた。
ここでも歴研のみんなの協力や、引き籠もり時代に培った
プラモの塗装の腕前が役に立った、
沙織ちゃんメイクは、清楚な中にも芯の強い女の子を表現しているが、
今回はモード系のメイクで、可愛いよりカッコ良いを目指してみた、
この方が男の時の俺からギャップが少ないはずだ……
難病設定とは言え、少しでもお麻理のショックを和らげたい。
だがボーイッシュとは違う、モデルさんのような綺麗カッコ良さだ、
ブラウンのアイシャドウ、マットな赤リップ、北欧を思わせるカラコン、
自分でも惚れ惚れするほどの美人さんになれた、
昔、天音と一緒に見ていたアニメの主人公がメイクアップで、
色んな女の子に変身する話があったが、正にそんな感じかもしれない。
「俺だよ、お麻理、驚かせてごめんな……」
「本当に宣人なんだ…… もっと近くにいってもいい?」
俺の顔を覗きこみながら、お麻理が手を伸ばして頬に触れようとするが、
途中で何故か躊躇してしまう……
「何だか不思議な気分、触れたら壊れそうな感じ……」
「そんなにデリケートじゃないぜ、どっちかって言うとバリケード」
俺の親父ギャクが理解出来ず、しばし固まるお麻理、
次の瞬間、笑い出す、
「やっぱり宣人だ、美人さんになっても根っこは変わってない……」
安堵の表情を浮かべ、泣き笑いになるお麻理、
そんな俺達を黙って見守る天音、そう言えば子供の頃にも
似たような事があったな、仲良し四人組、俺、天音 お麻理
そして柚希、男は俺だけだったので良く女の子の遊びに付き合わされた、
おままごとのような事、お麻理の部屋が定番の遊び場で、
俺は男なのに、着せ替え人形のように女の子の格好をさせられたっけ。
その時も、皆に結構似合うとはやし立てられ、
恥ずかしさで表向きは反発していたが、心の中では満更でも無かった、
「宣人は素質があったのかも……
悔しいけど、私よりも美人だし」
「そんな事ねえよ…… 綺麗になったよな お麻理」
不思議と、この格好をしていると本心が素直に言えるんだ、
「えっ! そ、そんなことないよ、き、綺麗だなんて……」
お麻理がドキマキしながら真っ赤になる、
「でも、病気の方は大丈夫なの、発作は出ないの?」
話を逸らそうとする所も、お麻理らしくて可愛らしい……
「ああ、親父の大学系列の病院にお世話になっている、
献体としても貴重なケースらしいから、逆に歓迎されているんだ」
これは全て嘘では無い、大学病院にコンタクトを取っているのは本当だ、
別件だが大事な人の為だ、これもいずれ話せると思う。
もう一つの配慮は、お麻理がせっかく沙織ちゃんと友達になれたのに、
俺の正体を明かす事は忍びないと思ったんだ……
しばらくの間、沙織ちゃんに実在して欲しい、
だけど、宣人がいない整合性も取りたい、そこで考えついた作戦だ。
「お麻理、聞いてくれないか、先程の大学病院の件だが、
しばらくの間、入院して検査したいとのことなんだ……
だから、当分会えなくなるかもしれない、その事をお前に伝えたかったんだ」
お麻理の表情が固くなり、笑顔が消えた……
「でも心配しないで欲しい、きっと元気に戻ってくるから、
それといとこの沙織ちゃんをよろしく頼む……」
「わかった、宣人もお大事にして、何か出来ることがあったら言ってね」
沙織ちゃんの話を出しても気付かれていない、良かった……
「沙織ちゃんには、俺の代わりに歴史研究会に参加して貰う予定だ、
そこで今度、予定されている合宿で、お麻理にも手伝って欲しい」
「えっ! 私も歴史研究会の合宿に、沙織ちゃんと?」
驚くお麻理と天音、
そうだ、合宿には沙織ちゃんとお麻理じゃないといけない理由があるんだ……
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