たけくらべ

「で、お兄ちゃんは、さおりんのままでイイの?」

 天音が自室でベットに腰掛けながら、女装の俺に問いかける、

 お祖母ちゃんの一件が終わった今、俺が女装を続ける理由は無い、


「うん、せっかく服も大量に買い込んで貰ったし、

 学校でも鳴り物入りで紹介されたから、もう少しこのままでいいかなって……」

 俺もこの格好に慣れてきて、楽しむ余裕まで出て来たんだ。


「そう…… お兄ちゃんが良いなら任せるけど、

 後々、面倒な事になっても天音は責任取れないよ」

 心配そうな面持ちの天音、だけど本多会長の言葉も気になるんだ、

 この女装が俺達を助けてくれるじゃないかって……


「もうすでに、面倒な事になっているけどね……」

 俺が言い終わる前に、玄関の呼び鈴が鳴る、


「最初の難関、お麻理のおでましだ……」

 来客を確認するインターフォンのカメラを見なくても分かる、

 俺、宣人が体調を崩していると聞いて、お見舞いに来てくれたんだ……


「お兄ちゃん、どうするの? さおりんの格好で大丈夫なの」


「まあ、さおりんにお任せして!」

 軽くウインクしながら、天音に微笑みかける、


「まず、天音が出迎えてくれないか、その間に用意するから」

 心配そうな天音を送り出しながら、お麻理を迎える準備をする。


 その間に自分の部屋に戻り、ベットに潜り込み、布団をかぶる、


 二人が会話をしながら、階段を上がる音が聞こえてくる、


「お麻理お姉ちゃん、そんなに気を使わなくて大丈夫だよ……」


「でも、子供の頃から、宣人は肝心な時に病気になるから、

 毎回、心配なんだ……」


「お兄ちゃん、お麻理お姉ちゃん、お見舞いに来てくれたよ」

 ドアをノックする音と共に二人が部屋に入ってくる気配がする、

 何故、気配かって、それは俺が深く布団を被っているからだ、


「宣人…… 起きてる?」

 お麻理の心配そうな声、顔を見なくても、どんな顔をしているか想像出来る、


「お麻理、悪いな…… 心配掛けちまって」

 布団から手だけ出し、お麻理に答えた。


「宣人、本当に大丈夫なの? 一体どこが悪いのか教えて」


「お麻理…… 命に別状はないから心配しないでくれ、

 でも、今は顔を見せられないんだ」

 俺は出来る限り、優しくお麻理に語りかけた、


「俺の掛かった奇病は、非常に珍しい物で、千人に一人しか発病しない、

 その病名は……」


 お麻理も天音も呆気にとられ、俺の言葉に固唾を呑んでいるのが感じられた、


「宣人!」


「お兄ちゃん、それは言っちゃ駄目!」


「その病名は異性装障害だ、それもステージ末期」


「宣人、分からないわ…… 一体どんな症状が出るの?」

 お麻理が聞き慣れない単語に動揺しているのが分かる、


「簡単に言えば、異性の服装、そう、女装しないと禁断症状が出るんだ、

 命に別状は無いと言ったが、最悪の場合、呼吸困難に陥り、

 子供の頃からの体質で危険になる事も……」


 異性装障害は本当にあるが、後半は俺のでっち上げだ、


「その体質ってまさか……」

 お麻理はすでに気付いてしまったようだ、


「そう、そのまさかだ、俺は子供の頃、重い喘息を患っていた、

 今は、喘息も良くなっているが、季節の変わり目には薬が欠かせない、

 だから、お麻理にもこの病気を理解して欲しい……」


「私はどんなことがあっても、宣人を見捨てたりはしない……

 だから全てを話して大丈夫だよ」


 お麻理の真剣な言葉に、胸が痛んだが、ここで話さないといけないんだ、

 俺達の未来の為に……


 俺は被っていた布団を勢いよく剥ぎ取って、お麻理の前に全てを晒したんだ。

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