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 我が校初めての特別授業は無事終了した……

 お祖母ちゃんの講演も予想しなかったが、その後のプログラム、

 代表によるデモンストレーションに驚かされた、


 有名な学生服メーカーの協賛でジェンダーレスに対応した制服、

 それを着用した生徒代表によるファッションショーが開催されたんだ。


 軽快な音楽と共に壇上に登場したのは……


「天音! それにさよりちゃん?」

 二人が手を繋ぎながらランウェイに登場した、

 ブルゾン風のジャケットは男女差の無いデザイン、

 スカートも選べるが、男女兼用のスラックスは

 身体のラインが出にくいタイプ、

 これならユニセックスに対応出来、性差関係なく着用できる、

 天音がマイクを取り、壇上から語りかける、

「今まで、既存の制服を窮屈に感じていた人も多いと思います!

 これからは自分の好きな組み合わせを選びましょう」


 この言葉に体育館中が一気に盛り上がりを見せる、


 天音がマイクを隣のさよりちゃんに手渡す、

 彼女はマイクを握りしめたまま、しばし沈黙したが、

 意を決したように顔を上げた……


「私はこれまで、短い制服のスカートを穿くのが嫌でした、

 通学の電車でも大変、不快な経験もしました……」

 あのおとなしいさよりちゃんが、自分の言葉で全校生徒を前に

 発言している、あんなにトラウマで男性恐怖症になる程の経験を語っている。


「何で、女の子は短いスカートに縛り付けられなければならないのか?

 私は疑問でした…… だけどこの新たな制服なら、自分を偽らない

 新しい一歩を踏み出せそうな気がします!」


 自然と会場全体から拍手が巻き起こっていた、

 俺は本多会長や校長先生の目指す意図が、はっきり理解出来たんだ、

 天音の男装女子化を発端に、他の生徒の間でもジェンダーレスへの

 気運が高まっていた事を、そして中総高校の進むべき姿が。


 だけどその時の俺は気に留めていなかった、

 視界の隅に写った、会場の来賓席から苛立たしく立ちさる人物の存在を……

 この制服のデモンストレーションが、今後の俺達に暗い影を落とす事も、

 知るよしもなかった……


 特別授業終了後、俺と天音は校長室に呼び出された、


 部屋に入るとそこには、本多会長と……


「お祖母ちゃん? どうしてここに居るの」

 お祖母ちゃんがソファに腰掛け、柔和な微笑みを浮かべている、


「二人とも、こっちにおいで」

 お祖母ちゃんが俺達を手招きする、


「こんなに立派になってくれて、祖母ちゃんは嬉しいよ……」

 お祖母ちゃんの前にしゃがみ込んだ俺の頭を優しく撫でてくれる、

 幼い頃のままだ、お祖母ちゃんは俺が困った時、悲しんでいる時、

 こうやって慰めてくれた、この優しい手に何度救われたことだろう……


「お祖母ちゃん……」

 思わず、目頭が熱くなる、


「宣人、よく頑張ったね……」

 一瞬、耳を疑った、女装男子化した俺は天音設定なのに、


「何、言ってるの、お祖母ちゃん、私は天音だよ……」

 動揺で言葉が不自然に上ずってしまう。


「小僧、いや今は小娘か…… お祖母様はとっくに気付かれておられる、

 君たちが入れ替わっている事にな」

 本多会長が驚きの発言をする、


「えっ! お祖母ちゃん、本当?」

 天音も動揺を隠せない、何故だ、俺の女装は完璧だったはずだ……


「最初から気付いていましたよ……

 二人が入れ替わっている事も、そして何か深い事情がある事も」


「お祖母様と相談して、今回の特別授業にも参加して頂いた、

 今までの君達、二人の活躍も話してある」

 本多会長が今回の種明かしをする、騙しているているつもりが

 逆にこちらが騙されていたのか……


「お祖母ちゃん、どこで気付いたの?」

 お祖母ちゃんがまた、少女のように悪戯っぽく微笑む、


「宣人ならもっとおはぎを沢山食べるからね……」

 思わず、吹き出しそうになった、そうか、本当の俺だったら、

 人の分までおはぎを食べていただろうからな……


「きっと優しい二人の事だから、お祖母ちゃんを心配して

 芝居を打ってくれたんだろうから、」


「お祖母ちゃん……」


「宣人、天音、本多会長様から話は聞きました、

 一度、決めた事は何があってもやり遂げなさい、

 それがどんな格好悪くても、人から後ろ指刺されても、

 亡くなったお祖父ちゃんもそんな人だった……

 大会の優勝目指して頑張りなさい!」


 俺は今更ながらに、自分に生まれて幸せだと感じた、

 お祖母ちゃんの孫で良かった、そして天音と出会えた事にも感謝しよう、


「お祖母ちゃん! 俺、絶対優勝するよ」


「その意気だよ、だけど宣人、その格好で宣言されると、

 祖母ちゃんも不思議な気持ちになるよ……」


 あっ! そうだ、今は女装男子モードだっけ……


「もとい、お祖母さま、私、絶対優勝しますわ!」

 サオリンに戻って言い直す俺に、その場のみんなが笑いだす、

 多幸感に包まれながら、今回の騒動の終わりを感じた一日だった。

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