以心伝心

「沙織ちゃん、急がないと特別授業に遅れるよ!」


「うん、大丈夫だよ! お麻理お姉ちゃん」


「お麻理でイイよ、同じクラスなんだし……」

俺は驚いてしまった、この呼び方は嫌がっていたはずじゃ?


「えっ、本当にイイの? 何だか失礼じゃない……」


「クラスメートだし、これから沙織ちゃんとは

もっと仲良くなりたいから、そう呼んで欲しいの……」

照れくさいのか、こちらを見ないでお麻理はそっと呟いた、

俺は少し考えこんでから、こう言った。


「お麻理…… ちゃん?」


「ぷっ! あははっ、ちゃんは要らないから」

思わず吹き出す彼女、つられてこちらも笑顔になる、


「それに、よけい変だし……」


「分かった…… お麻理!」


「沙織ちゃん、それで良し!」


繋いだ手がいっそう暖かく感じられ、キュッと握り返してくる指先、

たとえ、こちらの姿形は違っていても、お麻理の想いは変わらない……

ありがとう、心の中で俺は何度も繰り返した。


特別授業が行われる体育館は、半年前に改装工事が行われたばかりで、

歴史研究会おなじみの部室棟の隣に位置する。


体育館前の通路では誘導係の教師が、手際よくクラス単位で入場させていた、

建物の後方から室内に入ると、さながら全校集会の様相を見せており、

並べられたパイプ椅子に大勢の生徒が着座していた。

中総高校全校を巻き込んで一体何をやる気なんだ、本多会長は?


案内された席順表に従って座る場所を探すが、これだけの広さだ、

中々見つからない…… 


「沙織ちゃん、ここだよ!」

声を掛けてくれたのは弥生ちゃんだった、天音も隣に座っている。


「弥生ちゃん! それに天……」

じゃなかった、今日は宣人に入れ替わっているんだ、

そしてお麻理も隣に居るし、呼び方一つに気を付けなきゃ、

ああ、ややこしい……


「沙織ちゃん、ちょっといい?」

天音が俺に耳打ちしてきた、何々…… えっ!それってマズいんじゃない?


「本多会長からの伝言、確かに伝えたよ……」

茫然とする俺と対照的に、天音は平然としていた、

今回の計画が根本から崩れるのに?


「ねえ、どうしたの? 二人とも、早く座らないと先生に怒られるよ!」

弥生ちゃんが俺達二人を呼び戻そうとする。


「とにかく、今回は真一郎君を信じましょう……」

天音が俺に念を押してくる、そうだ!乗りかかった船だ、

それがたとえ泥船でも、先にこぎ出すしか無いんだ、

心配そうに見つめるお麻理の隣に、急いで着座する。


「これより中総高校、特別授業を開催します!」

プログラムの開始を告げるアナウンスが流れる。


ステージ脇の大型モニターに、これからのスケジュールが写しだされる、


一見、入学式や卒業式みたいな内容で、校長先生の挨拶や来賓挨拶が並ぶ、

んっ? 見慣れない文言があるぞ、「特別講義後、代表によるデモンストレーション」

何だ、特別講義? デモンストレーション? 意味が分からない……


校長先生の挨拶に始まり、その後、来賓が入場し始めた、


その中にはもちろん、本多会長も居るはずだ、

教育委員会のお偉方、他校の校長が次々入場してくる、

祝辞の電報ではあるが国会議員、市長まで名前を連ねる、

何なんだ、この仰々しさは?

そして最後に本多会長が入場してきた、

その後ろに続く人物を見て、俺は驚愕してしまった……


「!?」

本多会長にエスコートされ、来賓席に座ったのは、

俺達のよく知っている人だった。


「お祖母ちゃんが何故、来賓席に?」


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