Good-byeシーズン
「飛び級って…… 私が?」
「沙織ちゃんと同じクラスになれて逆に嬉しいんだ、
まあ、宣人と離れるのはちょっと複雑なんだけど……」
お麻理が嬉しそうな反面、本音を少しだけ覗かせる、
「お麻理お姉ちゃんは、宣人さんと幼なじみだもんね、
やっぱり離ればなれは寂しい?」
お麻理が俺を心配してくれるのが嬉しくなった俺は、
わざと焦らすような質問を投げかけてみた。
「えっ、寂しいなんて事、全然無いから! 手間の掛かる宣人が居なくなって
本当に気が楽なんだから……」
真っ赤になり、勢いよくかぶりを振るお麻理、
「でもね…… 」
お麻理がふうっ、と溜息を洩らす、
「子供の頃から隣に居るのが当たり前だったんだ……
そんなアイツの姿が見えないと、ちょっと心配なんだ」
「お麻理お姉ちゃん……」
俺はそんな姿を見て、申し訳なく思った、お祖母ちゃんの為とはいえ、
親しいお麻理も欺かなければいけない。
思わず、女装をこの場でカミングアウトしたくなったが、
今は時間が無い、早く教室に戻らなければ……
ふと廊下の窓から見える景色に視線を落とす、
黒塗りのハイヤーが校舎前の駐車場に滑り込んできた所だった。
運転席から降りてきたのは、執事の皆川さんだ、と言うことは……
エスコートされながら、後部座席から降りてきたのは、お祖母ちゃん!
もう、到着しちゃったの? ヤバい、一刻も早く教室に戻らなきゃ、
「お麻理おねえちゃん! 詳しい話は後で」
「えっ、ちょっ、ちょっとどうしたの、沙織ちゃん?」
驚くお麻理の手首を掴んで一緒に廊下を走る、
「こらっ! 沙織ちゃん、廊下は走っちゃ駄目って言ったでしょ?」
「今は見逃して、これには深い事情があるんだ……」
こちらの真剣な表情を見て、お麻理がゆっくりと頷く、
「今回だけだよ、沙織ちゃん」
お麻理が繋いだ手を強く握り返しながら、ウインクをして見せた、
俺達は教室に無事戻ることが出来た。
「おう、大丈夫か? 遅いので心配したぞ」
下田先生が優しく声を掛けてくれる、
「及川も悪いな、様子を見に言って貰って」
「ちょっと緊張で気分が優れなかっただけだよね、沙織ちゃん?」
お麻理が上手くフォローをしてくれる、トイレが長過ぎなのは
女の子として恥ずかしいだろうとの配慮が感じられる言葉だ。
「は、はい、初めての転校なので、緊張しちゃいました……
皆さん、お騒がせしてゴメンなさい」
ペコリとクラスの皆にむかって頭を下げる、
「大丈夫、大丈夫、いくらでも待ってるからね、沙織ちゃん!」
「その緊張を優しく、ほぐしてあげたいな……」
またクラスの男子が色めき立つ、俺、猪野宣人がいなくなって、
寂しがる奴は男子の中にはいなそうだ……
笑顔が引き攣りそうになる前に席に戻る、
「今日は特別授業を行う! 全員、体育館に移動してくれ」
突然の下田先生の言葉に教室中がどよめく、
「えっ、特別授業って何ですか?」
「そんなの聞いてないよ!」
「何か必要な物はあるんですか?」
そんな質問を遮るように、先生は説明を続ける。
「今日は教育委員会やPTA会長、そして来賓の方々に集まって頂き、
我が中総高校の将来を担う、視察も含めた特別授業と聞いている、
会場に集まったらPTA会長から授業内容について説明があるそうだ……」
普通の授業参観じゃない? 本多会長は何か大きな秘密を俺達に
隠しているんじゃないだろうか、そして教育委員会がなんで関係あるのか?
「沙織ちゃん、大丈夫? 顔色が悪いみたい……」
隣に座るお麻理が心配して声を掛けてくれた、
「大丈夫だけど、お麻理お姉ちゃん、もし私に何かあったら支えてくれる?」
漠然とした不安から、思わずお麻理に助けを求めてしまう……
「当ったりまえでしょ! お麻理お姉ちゃんは沙織ちゃんの味方だよ……」
子供の頃から、この言葉に助けられて来たんだ、
お麻理はいつも俺の味方だった……
小学生の事業参観で、母親が居ない事をクラスの友達にからかわれた時も、
泣きべそをかく俺をかばってくれたっけ……
「あっ、ゴメン、おかしいな、何だか宣人に言っているみたい……
ここに居ないのにね、沙織ちゃんが宣人のいとこで雰囲気が似てるのかな?」
自分の言葉に、戸惑いを見せるお麻理。
「ありがとう…… お麻理おねえちゃん、何だか元気を貰えたよ、
さあ、特別授業に急ごう!」
フワリとスカートを翻しながら、お麻理の手を軽く握りしめ、
特別授業の開催場所である体育館に向かう俺達。
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