男の娘でもいいですか?
「お麻理お姉ちゃん、今日からよろしくね!」
「今朝は駅で驚かせてゴメンね……転校とは聞いていたけど、
宣人と交換だなんて知らなかったから、逆にこっちが驚いちゃった」
駅の改札で、お麻理にハグされた一件だ、可哀想な境遇の後輩と
勝手に勘違いした行動だったな、あれ?後輩……
俺は大きな間違いを犯していることに気がついた、
俺こと沙織ちゃんの脳内設定は、お麻理の後輩、天音と同じ、
一年生設定だった……
ここは二年B組だ、転校してきた沙織ちゃんの辻褄が合わない、
だが既にお麻理お姉ちゃんと呼びかけてしまっている。
先程までの笑顔がフリーズしてしまう……
次の瞬間、ブレザーの胸ポケットで何かが激しく、振動し始めた。
スマホは胸ポケットには入れていない、じゃあこの振動は何だ?
慌てて胸を押さえる、みんなの協力でこしらえる事の出来たBカップ、
なだらかな曲線を描く胸ポケットには、ボールペンしかない、
ん? このボールペンは只のペンではない、本多会長ご自慢の
秘密アイテムだ…… 激しく振動を繰り返している
このままでは確実に怪しまれてしまう。
「下田先生、すみません…… お手洗い行ってきてもいいですか?」
真っ赤になりながら、消え入りそうな声を出す、
「お、おう、早く行ってこい……」
担任の下田先生は俺が緊張のあまり、トイレに行きたくなったと信じてくれた。
そんな俺を見て、心配げなお麻理、
「沙織ちゃん、大丈夫? 一緒について行ってあげようか……」
「ううん、大丈夫だよ、一人で行けるから、ありがとね」
急ぎ足で、教室の後ろ側から廊下に出ようとする、
教室内が大きくざわめくのが肩越しに聞こえる、
「何か、沙織ちゃんって守ってあげたくなるよな……」
「ザ、女の子って感じで、ホント可愛いし、俺ヤバいかも……」
「ちょっと男子、また勝手な事いうと、猪野さんが怖がるから駄目!」
不思議な気分だ、沙織ちゃんとしての行動が全てプラスに取られている、
ザ、女の子じゃなく、ザ男の娘なんだけどね……
抵抗はあったが、怪しまれないように女子トイレに入る、
今は授業中の為、他の生徒はまず居ないはずだ、
もちろん、女子トイレに入るのは初めてだ、おなじみの男子トイレとは違い、
小便器が無いぶん、そのスペースに鏡付きの洗面台が並ぶ、
南女のパウダースペースほど豪華ではないが、殺風景な男子トイレより、
ピンクを基調にした壁と言い、華やかな印象だ。
個室に入り、しっかりと鍵を掛け、胸ポケットのペンを手に取る、
まるでその動作が分かったように振動も止まった……
「これはいったい何なの?」
訳が分からない俺に追い打ちを掛けるように、突然ペンがしゃべり出した、
「おい、小娘、良く聞んじゃ、今すぐ校長室にこい!」
この声は…… 本多会長、でも何でペンから声が?
「驚いたようじゃな、このボールペンは儂の逸品だと言ったじゃろ、
こちらからリモートで、色んな事が出来る多機能デバイスじゃ!」
声だけで自慢げな会長の顔が浮かんでくる。
「まあ、詳しい話は後じゃ、小娘」
女子トイレを後にし、校長室に向かい、恐る恐るドアをノックする。
「小娘か? 入ってこい」
本多会長の声だ、でも何で校長室なの?
中に入ると、校長先生と並んで応接スペースに腰掛ける本多会長、
「本多会長!」
「おう、良く来たな、まあ、座れ」
会長に即され、ソファーに腰掛ける、差し向かいに座る校長先生、
校長先生と会うのは、天音の男装女子で初登校の時以来だ。
「本多会長、校長先生は……」
「心配するな、校長は儂の協力者じゃ、今回の一件も全て知っておる」
えっ! 俺の女装の事も?
「実はお前達の入れ替わり以外にも、学園の大問題があってな……
ここ最近、中総高校に良く来るんじゃ」
学園の大問題って何だ、物騒なことなのか?
「そうだよ、猪野宣人君、いや今は沙織君かな?」
校長先生がにこやかに話し掛けてくる、
「俺が女装で登校しても大丈夫なんですか?」
一番の疑問を投げかけてみる、
「天音君の男装女子での一件で、我が校への注目度は高まっているんだ、
県内初のジェンダーレスな取り組みとして、TV、マスコミを始め、
内外から取材、講演依頼etc、殺到しているんだ」
そうなんだ、天音が男装女子化してから、まだ僅かなのに、
学園内の口コミで広がり、その後、有名動画サイトに天音の登校姿が
ファンの手でアップされ、一気に火が点いたんだ……
元々、学園のアイコン的な美少女だったのも話題性になった、
「中総高校の知名度アップに、天音君は大いに貢献してくれているんだ、
次は沙織君、女装男子に期待しているよ!」
「ち、ちょっと待ってください! この女装には訳があるんです……」
このままでは俺の女装まで、学園の宣伝に使われてしまう、
「おう、そうじゃった、女装はお祖母様の為なんじゃよな」
本多会長が覚えててくれて助かった……
「本多会長、教えてください、なんで一学年上のクラスなんですか?」
俺は沙織ちゃんが何故、一学年上の学年に転入するのか知りたかった。
「うむ、それこそが儂の言った秘策じゃ……」
えっ? これが会長の秘策、いわゆる泥船ならぬ、大船なの……
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