女装男子で初登校
「ばあちゃんね、宣人と天音の立派になった姿が見てみたい……」
お祖母ちゃんの顔が一瞬、少女の頃に戻った錯覚がした。
何でもお祖母ちゃんの若い頃は、家の手伝いや、年の離れた兄弟の世話で、
満足に高校は通えなかったそうだ、今では考えられない事だが、
お祖母ちゃんの若い頃は、それが当たり前だったみたいで、
学校への強い憧れを語ってくれた。
「お祖母ちゃん! 俺達に任せて、見学できるようにお願いしてみるよ」
俺に扮した天音が、お祖母ちゃんに快諾する、
えっ! 簡単に約束しているけど、本当に大丈夫なの?
お前は男装女子公認だからいいけど、俺は女装男子カミングアウト前だよ。
「天音! 連絡お願いね、あの人に……」
誰の事だ、俺達の事情を知っていて、学園に影響力のある人と言えば、
「本多会長!」
「ピンポーン!」
二人で顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれる、
自室に戻り、早速連絡してみる、
「なんじゃと? お祖母様が学園を見学したいと……
小僧、いや、今は小娘か? お祖母様孝行、気に入ったぞ!
分かった、儂が校長に掛け合おう」
電話越しに、協力を約束してくれる本多会長に嬉しくなるが、
一番の気がかりは、俺が女装で登校する事だ……
「でも、天音と入れ替わったままだと、大騒ぎにならない?」
「儂に妙案がある、大船に乗ったつもりで安心せい」
本多会長が高笑いと共に、太鼓判を押す、
本当に大丈夫が? 泥船の間違いじゃないの、
一抹の不安を抱えながら、登校日の朝を迎える。
「おばあちゃん、おはよう! よく眠れた?」
「ああ、お陰様でぐっすりと眠ることが出来たよ」
お祖母ちゃんは既に起きていて、俺達の朝食を用意してくれていた。
「わあっ、お祖母ちゃんのお味噌汁だ、いただきます!」
天音と二人、食卓に着く、親父が湯気の向こうで微笑みかける、
何だか、今日一日、うまく行きそうな気がする、
俺達は、一足先に登校する、お祖母ちゃんは本多会長の用意してくれた
ハイヤーで送迎してくれるそうだ。
「いってきます、お祖母ちゃんまた後でね!」
慣れ親しんだ駅までの道、いつもの風景、変わらぬ空気感、
一番違うのは、俺が女子制服を身に纏っている事だ。
今朝は天音に扮するので、制服の色も、えんじ色のブレザー、
チェックのスカート、背中には天音のリュック、
もちろん、肩紐はルーズに。
「お兄ちゃん、そのドグダンチャーム、可愛いね!」
俺の歩みに合わせて、背中のリュックで揺れるのは、
さよりちゃんの一件で、コスプレカフェで入手した物だ。
限定品のレア物だが、あれだけ欲しがっていた弥生ちゃんが、
何故か、俺に持っていて欲しいとプレゼントされたんだ。
「なんで弥生ちゃんは、自分で付けないのかな?
あんなに欲しがっていたのに……」
「だからお兄ちゃんは、鈍いっていうんだよ、
弥生ちゃんの乙女心を、全然分かってない……」
呆れる天音に、俺は首をかしげる、
「お兄ちゃん、そろそろだよ……」
天音の顔に緊張が走る、
駅に近くなり、中総高校の生徒も多くなる、
今日の俺は沙織ちゃんではなく、女生徒の天音ちゃんなんだ。
背筋をキュッと伸ばし、女性特有の立ち振る舞いを心がける、
駅の階段を登り、改札へ向かう通路で声を掛けられる、
「天音ちゃん、おはよう!」
振り向くとそこには、制服姿のお麻理が立っていた……
「あれっ、宣人は一緒じゃないの?」
天音と俺を見て、怪訝そうな表情に変わる、
早速、第一の問題発生だ、どうする俺?
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