ときめぐり愛しトゥルーラブ
「柚希が練習中、急に倒れた訳にも関連があるの……」
萌衣ちゃんが驚くべき事実を口にする。
「さっき、部活中に倒れた事にも?」
思わず、反射的に聞き返してしまった……
マズいな、今の俺は男の娘だった事を忘れないようにしなければ、
柚希について、知りすぎている態度は慎まなければいけない。
おおよその検討はついていた、柚希の抱えるクロスジェンダーの特性が
今回の一件に深く関係があると言う事を。
あのお団子取りの一夜、俺の目の前で豹変した彼女、
可憐な少女から完全に別人格になってしまった……
俺を罵倒する彼女の表情は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
「柚希と出会った頃は、性別の入れ替わりが煩雑に起きなかったの、
私も刀根先生も、彼女の特性を理解していたお陰で、
大きな問題は無かったわ、だけど……」
萌衣ちゃんの瞳に悲しみの色が浮かんだ。
「柚希がおかしくなったのは最近なの、部活の練習中にも態度が変になり、
急に粗暴な言葉を投げかけたり、さっきみたいに突然帰ったりして、
最初はその真意が分からず、周りの私達は混乱してすごく悩んだわ、
でもね、今日の一件で確信したの……」
萌衣ちゃんの手元に置かれたグラスの中で氷が溶ける音が、
静かな店内に響いた。
「柚希の中で、性別の揺らぎをコントロール出来なくなっているの、
今の彼女は必死でその衝動と戦っている事を」
頭を激しくハンマーで叩かれた気分になった……
萌衣ちゃんの推測は正しいだろう、子供の頃、柚希は自分のせいで
両親が不仲になり、離婚せざるを得なかったと苦しんでいた、
俺はクロスジェンダーについて、何も知らない……
柚希の件についても、せっかく再会出来たのに深掘りしようとせず、
何をしてきたんだろう……
自分で自分が嫌になる、彼女からのサインはあったはずだ、
あの夜、バイクで自宅まで送り届けた日の事が蘇る、
妙にはしゃいでいた彼女……
一夜を共にして、別れ際に見せた涙の意味、
俺は何もわかっちゃいなかった……
「柚希……」
俺の知らない所で彼女は苦しんでいたんだ。
一体、どれ位の悲しみだったろう……
彼女を救える道はあるのだろうか?
「沙織ちゃん、大丈夫?」
うつむいた俺の顔を、心配そうにのぞき込む萌衣ちゃん、
柚希の事に感情が入り込みすぎてしまった……
「う、うん、平気だよ、柚希ちゃんの積み重ねた苦しさを思うと、
こっちまで苦しくなっちゃって……」
「ありがとう…… やっぱり沙織ちゃんって優しいんだね!」
萌衣ちゃんが最高の笑顔になる。
「あっ、冷めちゃう前に食べようか!」
目の前のナポリタンに視線を落とす彼女、
しばらく、無言で食べることに集中する二人。
「沙織ちゃん、変な事、お願いして良いかな?」
食べ終わった萌衣ちゃんが、紙ナプキンで形の良い唇を拭いながら呟く。
「宣人さんだっけ? 天音ちゃんのお兄さん、
沙織ちゃんのいとこだよね……」
「あ、ええ…… そうだけど、それがどうしたの?」
あなたの目の前にいるのが、その宣人とは口が裂けても言えない……
「沙織ちゃんから見て、宣人さんってどう思う?」
萌衣ちゃんの質問の真意が図りかねる……
何故か頭の中に、恋愛シュミレーションゲームが浮かんだ。
意中のヒロインの好感度を上げる為には、複数有る選択から
選ばなければいけない、選択を間違えると好感度も下がり、
それが続くと、最終的に告白してもらえない、
ただ、今回は選択を間違えると即、ゲームオーバーになるかもしれない、
ゲームのように選択肢は出ない……
萌衣ちゃんと仲良く、下校会話モードに移行出来るか?
それとも狂犬モードに強制移行させられ、即死か?
かなり無理ゲーなタイトルは、
「ときめぐり愛しトゥルーラブ」か?
どうする俺、いや、どうする沙織ちゃん!
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