Alone again
「柚希ちゃん、大丈夫?」
俺たちはドアを開けて驚いた、
保健室の中に居たのは看護師さんだけだった……
「柚希ちゃんはどうしたんですか?」
彼女がいないことに動揺する俺たち。
「ごめんなさい…… 目を覚ました後、引き止めたんだけど、
部屋を飛び出してしまったの……」
申し訳なさそうに謝る看護師さん。
「その時の様子を教えてもらえませんか……」
萌衣ちゃんが沈んだ面持ちで問いかける。
「何だか、人が変わったみたいに怖い表情になって、
言葉遣いまで別人みたいだった……」
俺たちは分かっていた、クロスジェンダーの特性が現れたんだ。
「やっぱり……」
芽衣ちゃんの呟きを俺は聞き漏らさなかった。
保健室を後にして無言のまま、廊下を歩く芽衣ちゃんに俺は疑問をぶつけてみた。
「柚希ちゃんの事、よかったら教えてくれない?」
前に話していた二人の出会いもまだ聞いていない。
俺の半歩先を歩む彼女が立ち止まった。
「沙織ちゃんには全てを話すって約束してたよね……
いいよ、ここでは何だから、場所を移動しよう」
俺と芽衣ちゃんは学校を後にして、駅前に移動した。
既に日が陰ってきて、駅の帰宅ラッシュは落ち着いていた。
芽衣ちゃんが案内してくれたのは、駅前のビルの二階にある喫茶店だった。
昭和の香りを残した昔ながらのお店だ……
カランとドアチャイムが鳴る、懐かしいな、子供の頃親父と行ったお店みたいだ
ビロード張りのソファーに腰掛け、メニューを開く芽衣ちゃん。
「お腹すいたでしょ? ここのナポリタンは美味しいんだよ!
部活の後、よくみんなで食べるんだ……
そうか、南女ダンス部の行きつけの店なんだな……
テーブルの上を見やると、やはり懐かしい十二星座の占いマシーンがある。
天音と子供の頃、こういうお店に来ると必ずやったっけ……
「お待たせしました、ナポリタンセットになります」
ウェイトレスさんが料理を運んでくれる。
ボリュームもあり確かに美味しそうだ、アイスコーヒーも付いている。
「美味しそうでしょ、ここ教えてくれたのおじいちゃんなんだ
この店のオーナーさんも具無理の常連さんなんだよ」
そういえばお店の中を見まわすと、インテリアの大半が昭和レトロな調度品だ。
俺たちの座っているテーブルやソファーもそうだ。
「おじいちゃんが定期的に出物が出たら入れ替えに来てるんだよ」
そうか、だから具無理に足を踏み込んだ時と同じ、タイムスリップ感があるんだ。
「さてと、そろそろ話そっか……」
芽衣ちゃんが本題に入る。
「柚希ちゃんの様子がおかしくなったのは最近なの、
沙織ゃんは気づかなかったかもしれないけど、彼女は特殊な性質があるの……」
芽衣ちゃんの言わんとしている事は既に分かっていた、
クロスジェンダーの特性のことだ……
俺を沙織ちゃんだと思って最初から説明してくれているんだ。
「柚希ちゃんか私と出会った頃から話始めようか、
半年前に転校してきた彼女は最初、男の子の格好と容姿をしていたの、
もともと人付き合いの得意じゃないタイプだったみたいだったのと、
その特異性に、他の生徒は関わりづらかったみたいで、彼女、最初は孤立していたわ。
だけど私は彼女を見た瞬間に、何だか友達になれるって直感したの」
芽衣ちゃんが出会いを懐かしむように微笑む。
「ちょうど、沙織ちゃんと会ったときに感じたのとおんなじ」
そういえばショッピングモールで芽衣ちゃんと会ったとき、言ってたっけ、
なんだか友達になれそうって。
「柚希は最初面食らっていたわ、何、このうるさい女って、
ふふっ、出会いは最悪からのスタートだったね……
しばらくして彼女の変化に気づいたのは、格好や容姿だけでなく、
人格まで変わってしまうんだって、昨日までは男の子、次の日には女の子、
ある日、柚希は教えてくれたの、自分はクロスジェンダーだって
それで過去に悲しい思いを何度もしてるって事……」
あのお団子取りの記憶が鮮明に蘇る、やっぱりその後も苦労していたんだな。
「子供の頃より、性別の入れ替わりをコントロール出来るって事も、
そして全てを打ち明けてくれた彼女を、ダンス部に誘ったの、
彼女は元々の才能もあったのか、メキメキと上達したわ、
副部長になって私をサポートしてくれるようになり、現在に至るの……」
「だけどね……」
そこまで話してくれた芽衣ちゃんが口ごもる。
「柚希が練習中、急に倒れた訳にも関連があるの……」
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