こいびとつなぎ
「次は沙織ちゃんの脱ぐ番だよ!」
無邪気に微笑む萌衣ちゃん、女の子ばかりの部活では当然なのか、
裸なのを隠そうともしないので、健康的な肢体が露わになる……
見てはいけないと思いつつ、どうしても視界に入ってしまう、
繊細で華奢な鎖骨に見とれる自分に、慌てて言い聞かせる、
今の俺は宣人ではなく、沙織だ……
女の子の気持ちに入り込むんだ! 奇跡は起きるはずだ……
昔、見た映画で、一目惚れした過去の女性に会いに行く為に、
思い込みだけでタイムトラベルを成功させたSFラブロマンスの名作がある、
天音の一番お気に入りアリス映画のように、俺のフェイバリットな作品だ。
念じるんだ…… その映画の主人公みたいに奇跡を起こすんだ、
俺は、いや、私は可憐な女の子なんだって、
萌衣ちゃんの前で制服のリボンを外す、そして上着を脱ぐ、
ロッカーの開いた扉に掛け、スカートのホックを外そうとした時、
「あっ! 沙織ちゃん、ごめんね……」
萌衣ちゃんがポーチを出し、その中から小型のケースを取り出す、
「コンタクト外すから、ちょっと待っててね、」
そのまま、パウダールームの鏡の前に向かった。
「萌衣ちゃん、もしかして…… コンタクト外すと視力って?」
「うん、結構見えないんだ…… だけどお風呂だと曇っちゃうから」
「人の顔も?」
「ぼんやりとしか見えないんだ、だから沙織ちゃんも恥ずかしがることないよ」
奇跡が起こったみたいだ……
「でも沙織ちゃんの裸をハッキリ見れなくて、ちょっぴり残念かも」
「ううん! 恥ずかしいから、それでOKだよ、萌衣ちゃん」
萌衣ちゃんが離れている隙に、急いで服を脱ぐ、
弥生ちゃんが選んでくれたショーツ、そしてブラを外す、
秘密兵器の胸パットはそのままで、肌色のスポーツブラに替えた、
急におっぱいが無くなったら、さすがにバレてしまうからだ、
天音が着替えとして入れてくれたのが役にたった。
ウィッグはもちろん外さずに、身体の前面をタオルで覆い、準備完了だ!
思い切って萌衣ちゃんの前に出てみる、
「萌衣ちゃん、お待たせ! シャワー浴びようか?」
「わっ、わっ! ぼやけてても分かるよ、沙織ちゃんスタイル良いねっ、
うーん、萌衣、やっぱりコンタクト取ってこようかな?」
「あっ! ダメダメ、恥ずかしいから絶対駄目だからね!」
思わず自分でも驚く位、可愛いミックスボイスが出せた……
これも、天音の男装女子化の際、かっこいい男声を出す練習の中で
お世話になったトレーナーさんに教えて貰った発声法だ、
女声と地声のミックスで混ぜるのが難しかったが、
前出の喉仏を意識すると上手くいく事が判ってから、俄然面白くなってきた。
萌衣ちゃんの動きが止まり、その顔がみるみる桜色に上気してきた……
「さおりん……」
しまった、またやりすぎてしまったか?
「か、わ、い、い、沙織ちゃん、もう食べちゃいたいくらい!!」
萌衣ちゃんが思いっきり抱きついてくる、
その勢いで、シャワールームに二人してもつれ込んでしまった、
目隠しのカーテンが勢いよく揺れる、
俺の背中が何かにぶつかった、次の瞬間、頭上から勢いよく水が降り注ぐ、
どうやら打たせ湯的な機能もあるみたいで、俺が背中で押したのは
そのボタンだった。
シャワールームの個室は二人で一杯のスペースだ、
必然的に萌衣ちゃんと俺の肌と肌が密着する、二人の間を遮るのは
薄いビニールのカーテンだけだ……
「きゃっ! 冷たくて気持ちいいね……」
びしょ濡れになりながらも、俺に向かって満面の笑みが溢れる、
可愛すぎる、男モードだったら完全にやられてしまう所だった……
だが今は猪野沙織ちゃんなんだ、同性として振る舞うんだ、
「うふふ、何だか可笑しいね、萌衣ちゃんに壁ドンされたみたい……
かなりドキドキしちゃった、萌衣ちゃんが男の子だったら恋しちゃうかも」
本当は逆なんだけどね、俺が男で君が女の子だから……
「よーし、さおりんをもっと夢中にさせちゃうんだから!」
更に萌衣ちゃんが身体を押しつけてきた、シャワーの温度は
熱くなっていないのに何だか身体が火照ってくる、
萌衣ちゃんってそっちの趣味もあるのかしら?
少し不安になりつつも、女装バレしない事に俺は安堵した。
何とか男バレせず、シャワールームを後にして着替えを済ませた、
メイクを極力崩さぬ様に気を遣い、ウィッグもキレイにセットを出来た、
「お疲れ様、じゃあ、柚希を迎えに行こうか」
萌衣ちゃんが優しく手を繋いでくる、恋人繋ぎ?
思わず、ドキドキしてしまう……
何だかシャワーを浴びる前より親密度が増している気がする。
「ところで、萌衣ちゃんに聞いていない事があるの」
「んっ、何だっけ?」
「萌衣ちゃんが言っていた、部活への危機感って、何?」
そうだった、先程のシャワールームではじゃれ合って終わってしまった。
萌衣ちゃんは少し困った顔を浮かべながら、こう切り出した……
「南女ダンス部の危機感はね……」
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