シャワールームから愛をこめて

「沙織ちゃん、一緒にシャワー浴びようよ!」


 とんでもない事になってしまった……

 俺達、歴史研究会が目指す大会での完全優勝、その参考になればと思い、

 単身、男の娘になって最大のライバル校、南女ダンス部の視察に潜入した。


 天音達の協力のお陰で、女装のレベルも我ながら完璧モードだ、

 しかし、それは服を着た状態での話だ……


 シャワーを浴びるとなれば当然、服を脱がなければいけない、

 女装の際、男バレしないポイントを挙げていこう、

 まず喉仏だ、ここが出ていると一発で男バレする……

 元々、俺は喉仏が目立たないほうで、更に顎を引き気味にすると、

 ほとんど分からなくなる、メイクも自分で練習して分かった事だが、

 メイクは濃すぎない方が男の娘の完成度が上がる、

 女装子の良くある失敗の一つに、男顔を隠そうと、厚塗りで

 気持ち悪くなってしまう事だ、

 以前、天音が男装女子メイクを部屋で披露してくれた時、

 同じ事を話してくれたっけ……


 ウィッグも重要なアイテムだ、これで決まると言っても過言では無い、

 男性と女性では髪の毛の生え際が違う、顔の輪郭も男性の方がシャープだ、

 そこをウィッグで隠すことが出来る、ある程度の長さが必要だが、

 あまりロングヘヤーも不自然さを感じさせてしまう、

 今のミディアム位のウィッグが男バレせず、周囲の目を完パス出来る秘訣だ。


 だが、そのアイテムも萌衣ちゃんと一緒にシャワーを浴びるとなれば、

 付けたままでは無理だ……


 上機嫌で俺の手を握りながら体育館に続く通路を急ぐ、萌衣ちゃん、


 更衣室は体育館の中に併設されているらしい、

 体育館入り口で刀根先生と会った、


「先生、柚希は大丈夫でした、今、保健室で安静にしています」


「そう、良かった、無事で何よりだわ、

 そうそう、柚希さんのお家にも連絡したけど、親御さん不在みたいなの」


 柚希の家には母親しか居ないはずだ、たしか夜の時間帯の仕事みたいだったな、


「後で私達が柚希を家まで送り届けますから」

 さすが部長の萌衣ちゃんだ、面倒見も良いんだな……


「ありがとう、じゃあ、お願いしていいかな、他の部員には先に解散してもらったし、

 先生はもう少し後片付けしていくから」


「分かりました、お先に失礼します!」

 萌衣が刀根先生に挨拶する横で、一緒にお辞儀をする俺、


「今日は見学させて頂き、ありがとうございました……

 ダンスの奥深さを少し分かった気がします」

 本心から言葉が出た、圧巻のパフォーマンスだけではなく、

 地道な繰り返しの練習から基礎が出来ているんだ、


「沙織さん、良かったらまた見学に来てくれない?

 あなたが来てくれて、他の部員達の刺激にもなったみたいだし……」


 えっ、俺が刺激に? 何故だろう……


「萌衣も分かって連れてきたんでしょ、沙織さんの事」


 悪戯っぽくトンちゃんが萌衣に目配せする、


「失礼だけど、初めて沙織さんを見た時、すぐ気が付いたわ、

 あなたの手足の長さ…… だけど長いだけではダンスで有利にならないわ、

 稀有な才能なのは、手の先、足の先まで無意識で綺麗な所作は、

 それは悔しいけど、持って生まれた天性なの……」


 俺にダンスの素質があるなんて初めて言われた、

 かなり面食らってしまった……


 だけど思い当たる節はある、女の子らしい動きを天音と特訓したんだ、

 それは絶対に男バレしないという、強い緊張感を伴って、

 男の格好の時には感じないことだった。


「そうなの、沙織ちゃんを見学に誘った要因の一つに、

 今の南女ダンス部に、私は危機感を感じていたの……」


 南女ダンス部に危機感? 俺の目には完璧にしか見えないが、


「危機感って何なの? 萌衣ちゃん……」


「それは一緒にシャワーを浴びながらゆっくり話すわ」


 あっ! 忘れていた…… 俺の置かれている状況が絶対絶命だって事に、


「じゃあ、先生、私達着替えて帰ります、お疲れ様でした!」


「柚希さんの事、よろしくね!」


 体育館の奥に更衣室がある、各部活の共用では無く、ダンス部専用みたいだ、

 清潔感のある広いスペースにロッカー、パウダールーム、

 その奥にシャワールームがある、カーテンで区切られた半個室のスペースだ。


 手前のロッカーの前で萌衣ちゃんが部活のバッグを置く、


「沙織ちゃん、私の隣、空いてるから使って!」


「……」

 無言で立ち尽くす俺、ここでお終いか……

 短い生涯だった、走馬灯の様にこれまでの思い出が頭をよぎる、

 萌衣ちゃんの目の前で服を脱いだら完全に男バレしてしまう。

 そんな俺を不思議そうに見る萌衣ちゃん、


「あっ、分かった! 裸を見られるのが恥ずかしいんでしょ?

 じゃあ、先に萌衣が脱ぐね!」

 そう言うや否や、萌衣ちゃんが服を脱ぎ始めた、

 まずはTシャツ、そしてジャージのズボン、そして靴下を脱ぐ、

 目を逸らす間も無く、ピンクのブラとショーツだけの格好になる、


「カワイイでしょ、チュチュアンナの新作なんだよ……」

 あれ? 以前、具無理のお風呂で見た時より胸が大きいぞ。

 まじまじと見つめる俺に、萌衣ちゃんが驚く、


「さおりん、何だか目がエロいよ、萌衣の胸ばかり見て……

 あっ、もしかして女の子もイケるタイプだったりして?」


「いやいやいや!違くて…… まあ、萌衣ちゃんはカワイイけど」

 慌てふためく俺に、萌衣ちゃんがケラケラ笑い転げる、


「やっぱり沙織ちゃんって面白い! よーし、今日はシャワー浴びながら

 色々秘密を聞き出しちゃうぞ!」


 萌衣ちゃんが下着姿のまま、俺に抱きついてくる、

 俺の制服越しの肩に、彼女のおっぱいが当たる、

 柔らかくてマシュマロみたいだ……


「萌衣ちゃんって、おっぱいおっきいね……」


「あっ、分かった? でもさおりんには隠し事出来ないから言うね、

 これは胸を大きく見せるシリーズの新作ブラなんだよ、

 シャワールームで本当のサイズ見せたげる……」


 俺は何も言えなくなってしまった……

 彼女は俺を沙織ちゃんとして信用している、

 この後、俺が服を脱いだら全てが終わる。


「さてと……」

 萌衣ちゃんがショーツを脱ぎ、丁寧に折りたたみ、次にブラを外す、

 疑いもなく一糸まとわぬ姿になった萌衣ちゃん、

 俺は直視することが出来なかった、彼女への罪悪感と、

 これから起こるであろう修羅場を考えると……


「次は沙織ちゃんの脱ぐ番だよ!」


 俺は観念しながら、制服のボタンに指を掛けた……

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