勝負下着だよっ

「柚希ちゃんとの出会ったのは……」


 萌衣ちゃんが語り始める、柚希はスパリゾートの医務室で俺に言った、

 クロスジェンダーの特徴である性別の揺らぎは、コントロール出来たと……

 だが、どうやって柚希はその術を会得出来たんだろうか?


 お団子取りの一夜が、俺の脳裏に強烈に焼き付いている、

 あの時の柚希は完全に女性のパーソナリティを失っていた……

 俺の顔も忘れてしまい、粗暴な態度は別人格に思えた、

 高校生になった柚希はまるで違う、俺と再会した一夜は男の子だったが、

 最近の柚希は女の子の格好をしている、

 待てよ、バイクで自宅まで送り届けた時、柚希はジャージを着ていた、

 ジャージは南女の指定体操服だった、胸のマークで近隣の高校と分かったんだ、

 女子校の南女には男子用の指定服は無い事に、俺は気が付かなかったんだ。

 柚希は男の子の格好で女子校に通っていたんだ、問題は無いのだろうか?

 それとも天音と同じく学校公認? 謎は深まるばかりだ。


 俺は萌衣ちゃんの次の言葉を待ったが、彼女は何故か言いよどんでいた、


「あのね、沙織ちゃん……」

 萌衣ちゃんの頬が赤くなる、一体どうしたの?


「話の途中で悪いんだけど、お願いがあるの……」

 後ろでまとめたサラサラの髪の毛を耳に掛ける仕草をする、


「一緒に更衣室に行ってくれない?、結構、汗ばんじゃったから、

 制服に着替えたいの……」


 そう言えば、柚希ちゃんを担架で運ぶ為、俺も汗をかいてしまった、

 体重の軽い女の子だが、気絶して脱力している人間を運ぶのは

 結構、力が要るんだ……


 そうだな、俺もインナーを着替えたい所だ、

 ん、インナーを着替える? うわうわ! 今、俺は何を着ている!

 ショッピングモールで、弥生ちゃんに選んで貰ったかわいい下着だ。


 今日は勝負下着だよ!って今朝、天音に言われた、

 一体、何の勝負だって笑った朝の平和なひとときが、今では懐かしい、

 花柄のブルーのブラ、ショーツのセット、

 その上にはブラが透けないようにキャミを着ている

 俺は柚希を助けたい一心で、すっかり女装をしている事を忘れていた……


「沙織ちゃんも着替えるでしょ? 一緒にシャワー浴びようよ!」


 ああああ! それは駄目ぇ!


「ウチの更衣室はシャワールームもあるんだよ、沙織ちゃん一緒に入ろ!」


「ああ、でも柚希ちゃんが目覚めるまで、ここに居た方が良いんじゃない?」

 最後の砦、柚希の看病と言うことで、この難局を乗り越えるしかない……


 その時、保健室のドアが開き、看護師さんが入ってきた、


「二宮さんの容態はどう? 変わりはなさそうかしら、」


「はい…… 大丈夫ですけど、このまま目が覚めないなんて事無いですよね」

 萌衣ちゃんが心配そうに質問する、


「まず安心して、彼女はいま鎮痛剤で眠っているだけ、

 暫くしたら目を覚ますはずだから……」


「良かったね、沙織ちゃん! あっ、私達、着替えて来たいんですが、

 その間、柚希の事お願い出来ます?」


 快諾する看護師さんを虚ろに見つめながら俺は思った、

 最悪の展開だ……

 萌衣ちゃんと一緒に着替え、そしてシャワーを浴びる、

 完全に女装バレしてしまう……


「柚希ちゃん、行こっ!」


 俺こと沙織ちゃんの手を掴みながら、萌衣ちゃんが微笑みかける、

 この天使のような笑顔を見れるのも後、僅かなんだろうな……


「なんじゃい、オドレ! でく助ならぬ、出歯亀か!

 警察呼ぶなんて生ぬるいわ、ここで処刑したる!」

 芽衣様の狂犬モード予想図が、俺の脳裏に浮かんだ……


 更衣室までの道のりが、まるで処刑台への一歩に感じたんだ、

 どうする? 俺ことさおりん……

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