ストップ!!さおりくん
「皆、注目して!」
顧問の刀根先生が、手を叩きながら南女ダンス部員の前に立つ、
二人一組になり、柔軟体操を行っていた部員達が運動を止め、
一斉にこちらに向き直った。
部員は総勢三十人は居る、この間のスパリゾートでは六名だったはずだ?
「チーム選抜を定期的に行っているの、上級生、下級生は関係なし、
大会ごとの演目に合わせるので、上級生だからって、うかうかしてられないの」
萌衣ちゃんが、小声で教えてくれた、だから土偶男子フェスの要項に沿って、
六名だったんだな……
「お疲れ様です!!」
部員全員でこちらに挨拶をしてくれる、お辞儀の角度、姿勢、
完璧に揃っている、彼女たちのいで立ちは上半身は胸元と背中に、
南女ダンス部と英字でプリントされたおそろいのTシャツ、
下半身は三本ラインの入った黒いジャージ、
髪は後ろで結んである子が多い、
先程の選抜の話で、上下関係が緩いのかと思いきや、
そんな事はなさそうだ、顧問や部長の話を一言一句、聴き洩らさぬよう、
皆、固唾を呑んで待っている。
「今日は見学者が居ます、ダンスの素晴らしさを伝えられるように
張り切っていきましょう!」
「はいっ!!」
部員全員の声が体育館に響き渡った。
「じゃあ、沙織さん、ちょっと自己紹介してね」
えっ! いきなり刀根先生に振られて、焦る俺、
「あっ、え、えっと……」
「私のお友達で猪野沙織ちゃん! ダンスがとっても上手みたいなの、
みんな、逆に教えて貰うかもしれないよ」
あああ、萌衣ちゃんが話を盛っている……
ダンスなんて、やった事無いんだけど、どうすりゃいいの、
部員の間に軽いざわめきが起きる、あの萌衣ちゃんが褒める程の逸材と、
勝手に話が大きくなっている証拠だ……
「でも、沙織ちゃん、着替え持ってきてないよね?
まさか制服のままでは、踊り難いし……」
萌衣ちゃんが心配そうに呟くが、俺はこれ幸いにと、
「う、うん…… それに恥ずかしいし、今日は遠慮しとこうかな」
「そう、分かった! 次の機会にお願いね」
ふうっ、何とかこの場を切り抜けた……
天音にも、念を押されているのが、今回の目的はライバル校の視察だ、
大会優勝に向けて、些細な情報でも仕入れなければ俺達に勝ち目は無い。
そうだ! 秘密兵器の存在をすっかり忘れていた……
俺は制服の胸ポケットに差し込んだボールペンに、そっと手をかざしながら、
この秘密兵器を借り受けた時の事を思い出していた。
「なんじゃと! 沙織君があの小僧? とても信じられん……」
本多会長はあんぐりと口を開け、驚きを隠せない様子だ、
ここは会長邸最上階にあるオフィス、そこに俺は沙織ちゃんとして訪問していた、
「本当に驚かせてごめんなさい…… でもこの女装には理由があるんです、
歴史研究会を優勝に導く秘策が!」
俺こと沙織ちゃんの必死のお願いに、最初は戸惑っていた本多会長も、
歴史研究会の優勝という言葉に、いつもの鋭い眼光が蘇ってきた、
「にわかには信じられなかったが、確かに小僧に間違いない……
しかし、化粧でこれほどべっぴんさんに変わるとはな、
儂が若かったら、街で会ったら間違いなくナンパしとるわい」
「相変わらず、お祖父ちゃんは冗談ばっかり!」
「おおっ! 成りきっとるな、頼もしいかぎりじゃ、
では、協力しよう! 儂のコレクションのほんの一部じゃが、
最新入荷したばかりの逸品じゃぞ、心して使うように、
それと、さよりの婿捜しの件も忘れるでないぞ!」
本多会長が俺に手渡してくれた物は……
胸ポケットに光る秘密兵器、ボールペン型カメラだ、
これで動画も隠し撮る事が出来る、
良く中華製品である、怪しい外観のパチモンとは違い、
有名ブランドのペンを模した物だ、
いかにもモニタリングが趣味の本多会長らしい。
これでHD画質で隠し撮りが出来る、
本体にはメモリーカードが無く、画像データは専用サーバーに
バックアップ出来るので、万が一身柄を確保されても、
証拠隠滅がしやすい。
俺はそんな事を考えながら、改造ボールペンの録画ボタンを押した……
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