女の子の魔法

「で、お兄ちゃんこと、さおりんは安請け合いしちゃったって訳?」


 ショッピングモールで交わした、芽衣ちゃんとの約束を天音に問い詰められる。

 完璧な男の娘になるべく、ティーンズ向けのカワイイ服を揃え、

 短めのスカートを気にする仕草も何となく掴めてきた、

 男装女子である天音の逆なんだと気が付いたんだ。


 天音は男の子になると宣言してから、日常生活でも男らしい所作を心がけていた、

 その努力は相当な物で、立ち方、歩き方、そして一番女性らしい所が出るのが

 座り方で、いわゆる女の子座りは厳禁で、その道のプロにレクチャーを受け、

 俺も一緒に特訓に付き合わされたもんだ……

 その甲斐もあって、天音の男装ぶりはみるみる完成されていったんだ、


 ただし、女性らしさを全否定するのでは無く、男らしい中にも

 気品が溢れる仕草なのが、他の女性を惹き付けるようだ。

 その証拠に天音に対する人気には凄い物がある、

 中総高校、他校問わず、女の子からラブレターを貰ったり、

 通学の電車や駅で告白される事は日常茶飯事だ。


 今宮みすゞの例を出すまでも無く、同性を熱狂させるのは

 男装の麗人だ、女性の気持ちを分かるから理想の男性に扮する事が出来る


 その逆で古来より歌舞伎では女形は男が女性を演じる、

 そこには男性からみた理想の女性像が投影されているから、

 世の男性がうっとりする妖艶な女形が誕生したんだ……


 俺は今の自分が面白く感じてきた、自分の理想の女の子を演じればいいんだ、

 先程のドラッグストアでも、萌衣ちゃんとコスメ選びをしていた時、

 感じた事がある、萌衣ちゃんはある意味、自分のかわいらしさを自覚している、

 具無理の店番を頼まれた時、近所のスーパーでの買い物でも

 その才能を遺憾なく発揮していた、相手に好印象を抱かせる術だ。


 でもそれは嫌な性格とかではない、萌衣ちゃんなりの処世術なんだ、

 過去に悲しい経験をした彼女だからこそ、自分を大切にして欲しい、

 そんな可愛らしい乙女心から来ているんだと言う事に。


 そして、萌衣ちゃんと天音達の待つ、フードコートに戻る時、

 すれ違う人々の視線、男の人だけではない、若い女の子までも

 俺達二人に注目していた。


「あの娘達、すっごく可愛くない?」


「右の女の子、背が高くて綺麗、どこかの雑誌のモデルさんかしら?」


 驚きを隠せなかった…… 俺の事を噂しているんだ、

 隣の萌衣ちゃんが、俺に囁き掛けてきた。


「沙織ちゃんが可愛いから、目立っちゃうね!」

 彼女が俺の肩を抱きながら、こちらに身体をぶつけてくる、

 俺も萌衣ちゃんを真似て、思い切って膨らんだ胸の前で手を組み、

 女の子らしい仕草をしてみると、近くにいた男性達がどよめくのが、

 ハッキリと感じられた、これか! 可愛いの魔法は……


「さおりん、ちゃんと聞いてるの?」


「うん…… 聞いてるよ、天音ちゃん!」

 俺の吹っ切れた言葉に驚く天音、

 ショッピングモールから帰宅した俺達二人は、親父に女装の理由を

 説明した後、天音の部屋で今後の作戦会議を始めていた、

 幸い、親父は天音の男装化の時と同じで、全く動じていない、

 少しは心配して欲しい気もするが……


「ど、どうしたの? さおりん、何だか男の娘度がレベルアップしたみたい」


「天音ちゃん! 私、分かったんだ、この女装はきっと意味があるんだよ、

 歴史研究会にも、そして大会での優勝にも!」

 俺はその時、確信していた、これは優勝への鍵だ……


「私、猪野沙織は最大のライバル校である南女子校ダンス部に

 女の子として潜入調査して来ます!」


 今、高らかに宣言する、天音の男装女子と俺の女装男子で

 完全優勝を目指す事を……

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