浮気な、パレット・キャット

「沙織ちゃんって、天音ちゃんのいとこなんだ……

 二人はとっても仲よさそうだね! 

 あれっ? と言うことは、でく……じゃなかった、宣人さんだっけ、

 天音ちゃんのお兄さんとも仲良しなの?」


 ショッピングモールのセンターコートを、俺は萌衣ちゃんと仲良く、

 並んで歩いていた、目指す場所は一階にある有名なドラッグストアだ、

 そこに先程のプチプラコスメを取り扱っているブースがある、

 女子高生に一番人気のブランドだ、フードコートで萌衣ちゃんが

 その値段に驚いたように、ほとんどの商品がワンコイン五百円で買える。


 萌衣ちゃんは俺の手を片時も離さず、握ってくれていた、

 通常の時なら、こんな可愛い女の子と手を繋ぐのはドキドキもんだが、

 女装した男の娘状態では、萌衣ちゃんにバレないか、

 違う意味でドキドキしてしまう……

 まさか、その天音ちゃんのお兄さんがお手々の先に居ますよ~ 

 何て、口が裂けても言えない……

 そんな事を思いつつ、萌衣ちゃんの質問に、うわの空で答えてしまう。


「え、ええ…… 何、 萌衣さん?」


「萌衣ちゃんでいいよ、沙織ちゃん!」


「じゃあ、萌衣ちゃんって呼ぶね……」

 おそるおそる呼びかける俺に、萌衣ちゃんがにっこりと微笑んでくれた。


「沙織ちゃんって、何だか面白いね、私の周りに居ないタイプかも……」


「えっ? どういう事なの?」


「うん、初めて会ったのに、昔からの友達みたい……

 本当に初めてだよね、前にどっかで会ったこと無い?」

 俺の事を上目使いで見上げる萌衣ちゃん、マズい…… 誤魔化さなければ!


「初めて! 初めて! 初めましてだよ、」


 慌ててかぶりを振る俺を見て、思わず吹き出す彼女、


「沙織ちゃんってやっぱり面白いね!

 良かったら萌衣とお友達になってくれる?」


 ふうっ、何とかバレないで済んだぞ……

 ん、でも萌衣ちゃん、どうやら沙織ちゃんを気に入ったみたいだ、

 これはこれでトラブルの予感がしないでも無い……


「うん! 私、結構人見知りだから、同年代のお友達少ないんだ……

 こちらこそ、よろしくね、萌衣ちゃん」


「嘘、こんなに素敵で可愛いのに勿体ないよ…… 

 沙織ちゃん! 良かったら今度、萌衣の学校に遊びに来ない?

 ウチの高校、女の子なら見学自由だから、今度、部活に遊びに来てよ」


 あれ? 何だか話が勝手に進んでいくぞ……

 墓穴を掘るとはこう言う事かも。


 ここの模範解答は、考えるまでもない……


「萌衣ちゃん お誘いありがとう……」


 せっかくだけど行けないかも、と続けて答えようとした矢先、


「本当! 良かった、ぜひ見学に来てよ、沙織ちゃんとダンス談義もしたいし」

 俺の両手をしっかり握りしめ、嬉しそうな萌衣ちゃん……

 断りのつもりが、なぜ快諾している事になってるの? 

 俺はそう言う星の下に生まれてきたんだろうか……


「じゃあ! 何時が良い? 早速明日なんてどう?」

 善は急げとばかり、萌衣ちゃんがアポを取る。


 さすが具無理のマスター譲りの商売人、商談のクロージングもお手の物だ。


「う、うん」


「じゃあ、メアド教えて、学校の地図と待ち合わせの詳細も送りたいから」

 俺は萌衣ちゃんとアドレスを交換した。


 君更津南女子高校…… この辺りでは有名なお嬢様高校だ、

 近くにある共学の進学校と同じ位、偏差値は高く、

 その上、スポーツ振興にも盛んな女子校だ、

 そして何より可愛い娘が多く在籍する事で、この界隈の男子からは

 常に憧れの的、だが男子禁制の校風も強く、

 普段から教員、父兄以外の男性は出入りする事は不可能だそうだ、

 年間で唯一のチャンスである文化祭も、在校する女子生徒からの

 招待状が無いと入場する事は出来ない……

 そんな乙女の花園に、俺こと沙織ちゃんはお誘いを受けてしまった。


 女装男子一年生の沙織ちゃんは、無事生還する事が出来るのだろうか?

 今後を刮目して待て!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る