朱に交われば
「あれっ?もしかして天音ちゃん達じゃない!」
俺達に声を掛けたのは……
「偶然だね! 歴史研究会のみんなでお買い物?」
狂犬娘こと、萌衣ちゃんだ、その隣には柚希や南女ダンス部の面々が居た。
今日の出で立ちは緑色のブレザーに、グレーチェック柄のスカート、
シャツの胸元にはスカートと同じ、チェック柄のリボン、
首都圏で女の子の憧れの可愛い制服、第一位にも選ばれた事もあるそうだ。
「隣、座ってもいい?」
先日と違い、柚希が声を発した事に何だか安堵した。
「柚希ちゃん、大丈夫! 空いてるよ」
天音も柚希ちゃんと会えて嬉しそうだ。
俺達の隣のテーブル席にメンバー全員で腰掛ける。
「あっ、そうだ、天音ちゃん、この間はお弁当作ってくれてありがとう!
アボガドとエビの料理、とても美味しかったよ」
萌衣ちゃんとバイクで出掛けた時の事だ、天音に協力してもらったからな。
「こちらこそ、具無理のマスターにはいつもお世話になってます」
天音と萌衣ちゃんが仲良く会話しているのを見て、微笑ましくなるが、
俺は、自分が女装真っ最中なのを忘れていた……
こめかみに変な汗が流れるのを感じた。
マズい、萌衣ちゃんと柚希にバレるのだけは絶対に防がなければ……
「でも、凄い買い物袋だね! 衣装の買い出し?」
萌衣ちゃんの質問に、天音達が一瞬、視線を泳がせる、
「あ、ああ、そうなの…… 大会に向けて、合宿もあるから」
とっさの機転で天音が口裏を合わせてくれた。
ほっ、と胸をなで下ろす俺、兄貴の女装の為です、なんて言えないもんな、
ただし、まだ窮地は脱した訳じゃない……
俺の座っている場所はテーブル席の端で、萌衣ちゃん達のテーブル席から近い、
フードコートのお店なので、机の間隔が狭い、
萌衣ちゃんと柚希が至近距離だ……
なるべく視線を逸らし、顔も俯き加減にするが、
ゴスロリ風コーデの俺こと沙織ちゃんは、いやがおうでも目を引いてしまう。
「あれ!? 彼女は初対面だっけ? 可愛いい服着てるね!」
萌衣ちゃんがこちらに興味を持っているようだ……
非常にマズい…… 何か言わないと不自然だ、
「はっ! はい! 私、天音ちゃんのいとこで、猪野沙織と言います……
萌衣さん、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくね! あれっ? でも何で私の名前知ってるの」
ヤバい! 思わず彼女の名前を口にしてしまった……
何とかして誤魔化さなければ。
「南女ダンス部の萌衣さんと言えば有名人じゃないですか!
私、ダンスを始めた頃から憧れだったんですよ~」
「えっ!? 沙織ちゃんもダンス好きなんだね、
萌衣の事、そんなに褒めてくれるなんて嬉しいな……」
苦し紛れに口から適当な事を言ってしまった、
それを信じて萌衣ちゃんが感激してくれ、俺に急接近してくる、
俺の頬に吐息が掛かる程、萌衣ちゃんの顔が近い、
かなり危険な状況だ、この近さでは女装を見破られてしまうかもしれない。
「でも、見れば見るほど……」
まじまじと俺の顔を見つめる萌衣ちゃん、
バレた? ついに女装を見破られたか……
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