恋色コーディネイト
平日の月曜日だと言うのに、ショッピングモールの館内は混雑していた、
中央通路の巨大なポップを見上げると、全館リニューアルオープンの文字、
この盛況振りも納得出来る。
究極の男の娘になるべく、第一歩を踏み出した俺こと沙織ちゃんだが、
先ほどの決意と裏腹に、今は弥生ちゃんの影に隠れるように歩いていた。
「弥生ちゃん、女の子ってこんなにも大変なんだね……」
俺は何だか急激に恥ずかしくなってしまったんだ、
それは今の格好が不完全だからだ……
髪型、メイク、胸、どれも完璧なのに、このグレーのスウェット上下、
寝間着で華やかな場所に来てしまったみたいだ……
男の時は全然感じなかった、この不思議な感情は何だろう?
「さおりん、分かった? これが女の子の気持ちなんだよ……
いつもお出かけ前は大変なの、どんな服にしようか悩んじゃう、
大好きな人に最高の自分を見せたいから……」
弥生ちゃんが、俺の手を握りながら微笑みかけてくれる、
「さっ、待ち合わせ場所に急ごっ!」
天音とさよりちゃんとはフードコートで待ち合わせしていたんだ……
二階にあるフードコートは全国の名店がテナントとして入っており、
リニューアルオーブンの目玉の一つと聞いた、
俺でも知っている有名店も多い、その中のアイスクリーム店に二人は居た、
何でもジェラードが絶品らしい、美味い物には目が無い天音らしい選択だな、
「弥生ちゃん、遅ーい、待ちくたびれちゃったよ」
「まあ、まあ、天音ちゃん、アンダーウェア選びは時間が掛かりますよ」
さよりちゃんがすかさずフォローしてくれる、
二人の座るテーブル席のサイドには大量の手提げ袋がカートに積まれている、
色とりどりの袋にはアパレルショップのブランド名が書かれていた。
「まさか、それ全部買ったの?」
「うん、そのまさか!」
にこやかに答える天音とさよりちゃん、
「おいおい、お祖母ちゃんを安心させる為だけだろ、俺の女装は、
いくら何でも買いすぎだろ……」
そうだ、元々今週末、ウチに泊まりにくるお祖母ちゃん対策にしては、
あまりにも大量過ぎないか?
「お兄ちゃ、いや、さおりん、何か勘違いしていない?、
僕は今週だけとは言ってないよ」
涼しげに天音が俺に言い放つ、
えっ! 何? 話が違くないか……
抗議しようとして、言葉を発しかけた俺に、天音が大きな紙袋を手渡す、
「まあ、話は後で、美味しいジェラードを食べながらゆっくり話そっ!
とにかく、これ着てきてよ」
俺は渋々、紙袋を受け取り、天音の指示通りフードコートの隣にある、
多目的トイレに入った、何故かと言うと、いくら完璧な女装でも
女子トイレに入るのは、一歩間違えば即逮捕案件になる……
学校の女子トイレでの一件が懐かしく思い出される、
あの時の天音も、普段は多目的トイレを使用していたっけ。
男装でも女装でも大変さは同じだが、女性が男子トイレに入っても、
大事件にならない気がする、良く行楽のハイシーズンの観光地で、
女子トイレが一杯の時、おばちゃんが平気で男子トイレに入ってくる、
それは通用しても、逆はあり得ない……
男が女子トイレに入ったら、間違えましたでは済まない。
多目的トイレは本来、身体の不自由な人を優先だから、
待っている人がいないのを良く確認して、短時間で着替えよう、
俺は天音に手渡された紙袋を多目的トイレの荷物置きに広げた、
「!?」
天音のメッセージカードが入っていた。
「さおりんへ、これは僕達からおすすめの男の娘コーデだよ、
ファーストコーデは……」
数分後、着替えから戻った俺に弥生ちゃんが声を掛けてくれた。
「さおりん! 早くぅ」
「ええっ? 何アレ、似合い過ぎじゃない!」
天音も興奮を隠しきれないようだ……
「ファーストコーデは私が選びました、バッチリですわ、
ロリィタ系コーデ!」
やっぱり、第一弾はさよりちゃんが選んでくれたのか……
このロリィタ系ファッションなら聞かなくても分かったけど。
ゴスロリ系のワンピース、そして白基調のシャツの襟元には
控え目なフリルがあしらわれている。
制服の三人と並んでも違和感の無いように、同じ色でまとめられている。
頭にボンネットは付けていない代わりに、大きめのリボンが彩られ、
キュートな印象だ、
俺はゲームの中で最強のSランク装備をした勇者の気分になっていた、
身も心も晴れやかだ、服がこんなにパワーをくれるなんて……
さよりちゃんが男性恐怖症を克服する為、アリスコーデをしていた時に、
話していた言葉を、俺は思い浮かべていた、
この格好をしていると本当の自分を解放出来るって……
「さよりちゃん、こんな素敵な服を選んでくれて本当にありがとう!」
活気に包まれる俺達のテーブル席、
「あれっ? もしかして天音ちゃん達じゃない!」
突然、隣から声を掛けられる、この声には聞き覚えがあるぞ……
まさか、こんなタイミングで彼女達と出くわすなんて。
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