はじめてのおつかい

 リムジンの車内に乗り込むのは、初めてだった……

 さよりちゃんの男性恐怖症を克服させる為、ダブルデートに出掛けた時は、

 俺と弥生ちゃんは親父の運転する車に乗っていた、

 あのイベントがかなり前の事に感じられた、俺達、歴史研究会にも色々あったな。


 以前より座席を始め、内装を一新してグレードアップしたようで、

 豪華さに磨きが掛かっていた、

 本多会長はさよりちゃんに気を遣っているみたいで、後部座席ではなく、

 さっさと助手席に乗り込んでしまった、あれだけの大企業の会長でも

 孫娘のさよりちゃんに嫌われたくないんだな……

 それを見て、俺は微笑ましい気分になつた。


 フカフカの白い本革シートに身を沈め、対面のバーカウンターに備え付けの

 冷蔵庫からカクテルジュースを取り出し、みんなで乾杯する。


「さおりんとの再会をお祝いして、乾杯!」

 天音がこちらにウインクしながら乾杯の音頭を取る、

 さすが天音、俺の考えはお見通しのようだ……

 俺の事をいとこの沙織ちゃんとして、会長に気付かれない様に

 口裏を合わせてくれたんだ。


「猪野せ、いや沙織ちゃん……」

 弥生ちゃんも一生懸命、努力して、言い直してくれる、


「沙織ちゃんはファッションって、何系が好みなの、

 ガーリー? フェミニン? モード?」

 弥生ちゃんが俺に密着しながら、隣で女の子向けファッション誌を広げ始める、


 いつもはこんなに密着したら、真っ赤になって恥ずかしがるのに……

 俺が女装している効果かもしれないな、


「えっと、沙織ね、イマドキのファッションに疎いの……」

 モニタリング大好きな本多会長の事だ、こちらの会話も聞いているかもしれない、


「弥生ちゃんにおまかせしていい?」

 照れながら上目使いでお願いのポーズを決める、

 対面の天音とさよりちゃんは、俺のセリフに笑いを堪えるのに必死だ……


「さおりん、まかせて! 弥生ちゃんが完璧コーデしたげる!」

 瞳をキラキラさせ、弥生ちゃんが俺の手を握りながら力強く宣言する。


 弥生ちゃんがお世話モードに入った、前回のダブルデートのコーデ以来だ。


 賑やかなやり取りをしている間にリムジンは目的地に到着した、

 ここは弥生ちゃんに告白された時、二人で訪れた大型ショッピングモールだ。


 確かにファッション関係の店が軒を連ね、県内最大級らしい、

 アウトレットも充実している、ここも本多グループだったんだ……


「諸君、今日は儂におごらせてくれ、何でも好きな物を買うと良い、

 そうそう、天音ちゃん、あの小僧にさよりをよろしく頼むと伝えてくれないか」

 本多会長が天音に耳打ちする、


「お兄ちゃんに?」

 会長の言葉に訝しがる天音


「まあ、言えば分かる、男と男の約束じゃ」

 あっ! 忘れていた、本多会長と約束したんだっけ、

 さよりちゃんの未来の旦那さん候補を見つける事を……


 まあ、いいか、男と男の約束なら、いまは男の娘だから保留にしておくか。


 本多会長と執事の皆川さんは、リムジン車内からリモート会議を始めるので

 俺達といったん別行動する、やっぱり多忙の身なんだな、本多会長も、


「さっ! お買い物ツアー隊、出発するよ」

 弥生隊長の気運が爆上がりしている……


 一階の食料品フロアを抜けると、左右に多数のショップがある、


 最初にどの店に行くんだろうか?


「最初の目的地はここだよ!」

 弥生ちゃんが指し示す、ショップの入り口で俺は思わず、まぶしさに

 たじろいてしまった……

 煌びやかな電飾だけで無く、店頭を埋め尽くす色とりどりのブラとショーツ、


 そう一軒目は女性用下着、ランジェリーショップだったんだ……


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