君の瞳は10000ボルト

「男の娘って俺が?」


「うん、男の娘っ!」


 天音がにこやかに、とんでもない事を口にする……

 男装女子になると言い出した時と同じだ。


「俺にはそんな趣味はないぞ、それに朝帰りの借りはこの間返したはずだ……

 俺に女装させる理由は何だ!」


「それはね、今はまだ内緒だけど、断る選択肢は無いの、

 お兄ちゃんの借りはまだ残っているんだよ♪ 」


 えっ! 俺は弥生ちゃんとのタンデムデートで完璧だったっはずだ、

 彼女も喜んでくれていたし……


「ここ最近、お兄ちゃんは人助けにかまけて、ミュウの世話サボってばかりでしょ、

 全部、天音が代行している分、借りの利子が溜まっているの」


 うっ! すっかり忘れていたが我が家は、義母の冴子さんが仕事の関係で

 長期不在の為、家事や猫の世話は当番制なんだ…… 

 それを守らないと家族で決めたペナルティがある。

 ミュウとは我が家の愛猫の名前だ……


 涼しげな表情で天音が微笑んだ、その笑顔と裏腹に絶対断れない威圧感だ……

 天音が悪魔に見えた瞬間だった。


「遅いからもう寝るね、おやすみ、お兄ちゃん」

 天音があくびをしながらガレージから出て行く、その後ろ姿に

 俺は何も言えなかった……


 ミュウについては俺が無理を言って飼い始めた事もあり、

 只でさえ、天音に協力する条件で、一ヶ月間、家事とお弁当作りを

 引き受けて貰っている手前、これ以上負担は掛けられないのに

 俺はそれを忘れていたんだ……

 天音だって、忙しいはずなのに今日まで愚痴一つ言わなかった、

 俺は今回も天音の計画に乗ってみようと決めた……


 次の日の放課後、歴史研究会には寄らず、家に真っ直ぐ帰ってこい、

 それが天音の第一の指令だった……

 合宿前の準備もあるのに、一体何なんだ、天音の考えは、

 

 家に帰ると、玄関に見慣れない靴が複数あった、

 誰か来客だろうか?


「ただいま……」

 誰も応答が無い、まあいいか……

 二階の自室に向かおうとすると突然、身体に鋭い痛みが走った。


「ぐあっ!?」


「お兄ちゃん、ゴメンね……」

 天音が片手にテレビのリモコン位の物を持ち、俺に押し当てている、

 バチバチッと激しい音と共に俺の全身に激痛が走る……


 激しくもんどり打ちながら二階の階段の踊り場に倒れ込む、

 薄れゆく意識の中で天音と誰かの話し声が聞こえる、


「ほ、本当に大丈夫なの? 猪野先輩、死んじゃヤダよ!」


「大丈夫、スタンガンの電流はセーブしてあるから……」


「今のうちに天音ちゃんの部屋にお兄さんを運びましょう……」


 弥生ちゃんと、もう一人は誰だ?……  


 俺の周りを囲む女の子の足だけが視界に入った、              

 中総高校指定のワンポイントの刺繍が入った靴下を皆穿いている、


 俺が覚えているのはそこまでだった……


 

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