NO.1 GIRL

「お兄ちゃんって本当は誰が好きなの?」


 ぎゅっと掌を固く握りしめ、真剣な眼差しで俺に問いかける。

 天音の質問の真意は分かっていた……


 萌衣ちゃんの今回の件について、出掛ける前に言われた言葉を思い返す、


「萌衣さんの事情は理解したけど、弥生ちゃんを悲しませる事だけはしないでね」


 人助けだと言いつつ、他の女の子の事情に介入しすぎだと心配しているんだ……


 正直、萌衣ちゃんは魅力的な女の子だ、異性として意識しないと言えば嘘になる、

 ただ今回の俺の行動は、過去に束縛されている萌衣ちゃんを救いたい、

 彼女を飛び切りの笑顔にしたいと言う想いには、一片の曇りもない。


 俺自身、兄貴の件でどん底だった時期に天音、親父、そしてお麻理

 周りのみんなに救われてきた経験がある、同じように苦しんでいる人を助けたい、


 だけど、天音の質問の真意は、俺が飛び切りの笑顔を与えるのは

 弥生ちゃんではないの? と言っている。


「天音、心配掛けて本当にゴメンな…… お兄ちゃんはズルいよな、

 だけど、これだけは言わせてくれ、

 今日の帰り道、萌衣ちゃんに大会の件で宣言したんだ、

 俺達、歴史研究会は絶対に負けない! 完全優勝するんだってね、

 そして、お前との約束を果たせたら、真っ先にやるべき事があるんだ……」


「お兄ちゃん……」


 俺は一番大切な女の子と約束をしたんだ。


 その女の子は……


 小柄な身体は高校生に見えない位、幼く見えて、照れてすぐ真っ赤になる女の子、

 そそっかしいところ、泣き虫なところ、 そんな全てを思い返す…… 

 だけど誰よりも人の事を最優先に考えてくれる、芯の強いところ


 そんな彼女の笑顔に何度救われただろう……

 彼女の屈託のない笑顔が、俺の心の中に焼き付いて離れない。


「俺が百年、いやそれ以上経っても笑顔にしたいのは一人だけだ、

 どんなに時が流れても、その人に俺の側に居て欲しい……」


「俺が好きなのは住田弥生ちゃんだけだ……」

 俺はもう一つの大切な宣言をした……


 今日はそんな星回りの日なんだろう、萌衣ちゃんと過ごした

 あの女神像での出来事も俺を素直にさせてくれた要因だ。


「お兄ちゃん、ありがとう……その言葉を聞いて安心した、

 何だか、僕が告白されたみたいで、感動しちゃった……

 その告白を、早く弥生ちゃんに聞かせてあげられるように、

 大会優勝目指して頑張ろうね!」


「おう、これから合宿も始まるし、遊んでる暇は無いぞ!」

 そうだ、顧問の八代先生の言っていた合宿が始まるんだ、

 場所はシークレットなので詳細は不明だが、先日のスパリゾートで

 日程は発表されたんだ、再来週の三連休に第一回目があるんだ。


「お兄ちゃん、 合宿の前にお願いがあるんだけど……」

 天音が悪戯っぽい微笑みを浮かべた、


 んっ? 天音がこの表情を浮かべる時は嫌な予感しかしない……


「お兄ちゃん……」


「何だ?」


「来週の土日、男の娘になってくれない?」


 へっ? 男の娘、言ってる意味が分からないんだが……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る