ボビーに首ったけ

「南女ダンス部の一人とお付き合いするんや! これは部長命令だからな」


 唐突な命令に思わず、耳を疑った……

 萌衣ちゃんでなく、南女ダンス部員の一人とお付き合いって 意味が分からない。


 一体誰となの? 確かスパリゾートのダンス披露では部長の萌衣ちゃん、

 副部長の柚希の他に、四名の部員がいたはずだ……


 でも何故? 萌衣ちゃんがそんなことを言い出すんだろう。


「あと、今回の件はでく助に感謝しとる、だけど、それはそれ、

 ダンスを舐めるなっちゅうワシの基本スタンスは変わらへん!

 大会は手心無しや、全力でオドレ達、歴史研究会を叩き潰すから、

 覚悟しておけ!」


「ああ! 望む所だ、俺達は完全優勝を目指す、頂点てっぺんとったる!」


「ほお、威勢だけはいっちょ前やな!」


 めいちょんの毒舌は感染するようだ、

 しかし、元気な彼女を見ているとこっちまで嬉しくなる、

 めいちょんはこうでなきゃ……


 具無理までの帰り道、侃々諤々の言い合いをしながら俺達の長い一日は終わった。


 ガレージにバイクを停め、荷物を下ろしながら今日起こった事を振り返る、

 夜なので近所迷惑ならないよう物音に気を遣う、

 夜露に濡れた車体を、労をねぎらうように拭き上げる


 黒い車体のサイドの膨らみに傷がある事に気がつく、

 萌衣ちゃんの身を案じて急ぐあまり、派手に倒してしまった傷だ。


「今日はお前もご苦労さん…… 傷は次の休みに直してやるよ」


 バイクに話し掛けるなんて変だよって、天音にも笑われるが、

 擬人化するわけではないが、愛着を持って接すると本当に

 調子が違う、これは俺だけではなく、親父も言っている。

 親父もバイク好きだが、一台を長く所有している、

 俺が乗っているインド製のベスパモドキ号もそんな一台だ、


 今、親父のバイクでの本妻はスーパーカブだ、

 親父いわく、大型免許も勿論持っているが、

 カブに始まり、カブに終わるが最近の口癖だ……


 大型バイクの加速や醍醐味も散々味わった親父が

 一生乗るんだと選んだ一台、


 俺はまだその領域にはとても達していない若造だが、

 何時か、一生添い遂げる一台に出会えるだろうか?


 心地よい疲れの中、そんな事を夢想する、


 そんな事を考えると傍らのモドキちゃんが嫉妬するといけないな……


 ライトカウルを拭き上げながら声を掛ける、


「大丈夫! 浮気なんかしないって、今はお前に夢中だよ……」


「誰に夢中だって……」


「うわっ!?」


 背後から急に声を掛けられ、本当に驚いてしまう、

 天音がパジャマのまま、ガレージに入ってきた


「お帰り、お兄ちゃん…… またバイクとおしゃべり?」


「お、おう! ただいま……」


 これは恥ずかしい、天音よ、こういう時は見て見ぬふりしてくれ、

 赤くなりながら、誤魔化そうと話題を変える。


「天音、お弁当ありがとう! 萌衣ちゃんも喜んでたよ、

 お前によろしくって!」


「それはよかったね、お兄ちゃん、

 萌衣さんの問題も解決したみたいだね、本当にご苦労様」


「だけどね、お兄ちゃん、天音訊きたいことがあるんだ……」

 天音が急に口ごもってしまう、

 しばらく思案した後、天音はこう言った……


「お兄ちゃんって本当は誰が好きなの?」

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