わたしの声
萌衣ちゃんの過去に向き合う旅は終わりを告げた、
彼女の晴れやかな笑顔が何よりの答えだ。
「でく助、今日、ここに連れてきてくれて本当にありがとう……
私ね、勇気が出なかったんだ、この場所に来るのが怖かったの、
もうお父さんとお母さんが、萌衣の生きているこの世界に居ないって
頭では分かっていても信じたくなかった……」
伏し目がちに話しているが、その瞳には一片の曇りも見られない、
「昨日まで萌衣はひとりぼっちだなんて、ずっと思い込んでいたのは
間違いだったんだなぁって……」
「お父さんとお母さんはずっとそばにいてくれたんだ、
二人は萌衣を見守ってくれている、これまでも、これからも……」
「萌衣ちゃん……」
そうだ! 心の中で大切な人とはいつでも逢える、瞼を閉じれば
それがスクリーンになる、肉体は消えても思い出は消えない
兄貴との心の会話もそうだ、いつも苦しいとき、俺の前に現れてくれる。
俺の気持ちの中にも爽やかな風が通り抜けた気がした、
これが萌衣ちゃんの言っていた幸せになる秘訣なんだ、
彼女の両親の残したメッセージの一つだ……
俺の役目は終わった、
「萌衣ちゃん、帰ろうか?」
「うん!」
女神像を見上げ、心の中で今日のお礼をする、
駐車場まで降り、バイクに跨がり帰路に着く、
勿論、食事をした広場から道具を回収するのは忘れない、
親父のキャンプ道具を無くしたら大目玉だ……
その後、俺は街中にある花屋に立ち寄った、
帰りのルートは行きの一般道では無く、有料道路を使う、
何故、行きのルートに有料道路を避けたか、
それは萌衣ちゃんの両親の交通事故現場を通るからだ……
だが、帰りは違う、どうしても立ち寄る必要がある、
有料道路を半分位走った所に、その現場はあった。
バイクを停め、死亡事故発生と注意喚起の看板がある前に立つ。
萌衣ちゃんと二人並び、黙祷をする、
手向ける花束は萌衣ちゃんに供えて貰えた……
「お父さん、お母さん、きっと喜んでくれるよね」
「そうだな……」
暫く二人で満天の星空を見上げた、
山々の木々の間から星が瞬くのが見えた。
「さあ、具無理に帰ろう」
事故現場を後にして出発する。
しばらく走ると、後ろの萌衣ちゃんからインカムマイクに会話が入る、
「あのね、私、でく助に謝らなきゃいけないんだ……
今まで、ひどい事ばっかり言ってゴメンね」
毒舌の事? そうだ!萌衣ちゃんの言葉使いが変わっている、
外観相応のしおらしい女の子になっている。
俺はしばらく考えた後、答えた、
「そのままでいいよ……」
「えっ?」
「出来れば、毒舌のめいちょんでいて欲しい……」
言ってしまった……
俺は思ったんだ、あの丘から彼女が滑落したと勘違いした時、
脳裏に浮かんだのは狂犬モードのめいちょんだった、
俺の心の中に住んでいる彼女は生命力に溢れる毒舌娘なんだ。
「本当に、そっちの萌衣でいいの?」
「喜んでお願いするよ、めいちょん!」
彼女が俺の腰に手を廻しながら、タンデムシート上で伸びをする。
「よーし、覚悟はいいか?」
「はいっ! ご褒美ください」
「おい! でくのぼう、いや、でく公! おどれはホンマに変態ちゃうんか?
言葉のご褒美くださいだと…… 気色悪!
はは~ん、分かった!
おどれはもう、この萌衣様無しではいられん身体になったんやな」
めいちょんから久々の毒舌を浴びせかけられる、
「でく助! ちょうどええわ、お前に命令したる」
命令? 一体何なんだ……
「南女ダンス部のある娘とお付き合いするんや!」
えっ!? お付き合い、何それ……
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