ラウンドテーブル
手際よく、バイクのパッキングを解き、リアボックスを取り外す。
リヤボックスの蓋を裏返すとフラットな面が出来るので、
そのままテーブルに早変わり出来る。
積載に限りがあるバイクでは車で運ぶような道具は運べない為、
このような工夫が必要となる、まあ、これも親父の受け売りなんだけど……
その脇に調理スペースとしてコンパクトなサイドテーブルを組み上げる
こちらもキャンプツーリングでは定番の鹿番長のアレだ。
調理スペースと言ってもキャンプ場では無い為、火は使えないので
準備してきた食材を順番に並べる。
具無理を出発前に一度自宅に戻った際、天音に事情を話したら
一緒に料理の準備をしてくれたんだ、
だけど出掛ける前に釘を刺されたな、
「萌衣さんの事情は理解したけど、お兄ちゃんはフラフラしている所があるから、
弥生ちゃんを悲しませる事だけはしないでね……」
弥生ちゃんの屈託の無い笑顔が脳裏に浮かぶ、
もちろん彼女の笑顔を曇らせるような事はしない、
今回は具無理のマスターに頼まれた事もあるが、人として萌衣ちゃんの力になりたい。
「でく助、どうしたの?」
準備の手が止まって考え事をしている俺に、心配そうに声を掛ける萌衣ちゃん。
「あっ、ゴメンゴメン、何でもないよ! 早くお昼にしよう」
冷蔵されたクーラーボックスから調理済みのタッパーを取り出す。
エビとアボガドを混ぜ、ユッケのタレで和えた一品だ、
肉料理が多くなるキャンプ料理ではヘルシーな一品で
女性受けも良いそうだ、天音提案のメニューだ。
「わあっ!美味しそう…… これ、でく助が一人で作ったの?」
「天音に手伝ってもらったんだ…… 萌衣ちゃんには昨日ご馳走になったからね」
「そうなんだ、妹さんと仲良いんだね……」
「ここ最近だよ、天音と良く話すようになったのは、
俺、中学、高校としばらく引きこもり状態だったんだ……」
何気なく、話したつもりだったが、萌衣ちゃんの表情が曇るのが分かった。
萌衣ちゃんには俺の引きこもりの話はしてなかった、
兄貴が逝ってしまったあの海の事を……
今は萌衣ちゃんに心配を掛けてはいけない、
「大丈夫! 天音が男装女子になったり、歴史研究会の活動に奔走したり、
引きこもっている暇なんかなくなったんだ!」
努めて明るい口調の俺に、笑顔を見せてくれる彼女。
「そうなんだ、良かった…… 」
「さっ! 食べよう、お腹空かせちゃったね」
ポットに入れたホットコーヒーを二つのカップに注ぎ、
料理を取り分け、彼女に渡す。
「美味しい……」
萌衣ちゃんがしみじみと呟く。
俺もエビを頬張る、うん! プリプリでアボガドと良く合う、
そこに酸味のあるタレが効いて絶妙な味だ。
それを流し込むコーヒーも美味い、
やっぱりアウトドアでの食事は最高だ、
家で食べる何割増しだろうか、ここまでの道中の疲れも吹き飛んでしまう。
ご飯のかわりにスライスしたバケットを持ってきたんだ、
バケットをお皿代わりにして食べる、
パンにタレが染みこみ、これまた美味い……
「はあっ、お腹一杯になっちゃった……」
「満足してくれた?」
「うん、大満足! でく助ご馳走さま、そして天音ちゃんにもよろしく伝えてね」
良かった、喜んでくれたみたいだ……
今日の第一段階は成功だ。
「ねえ、でく助、一つ聞いて良い?」
「んっ、何?」
「この場所に来た時、俺だけの秘密の場所って言ったよね、
それって、本当の事じゃない?」
萌衣ちゃんが何時になく真剣な表情になり、俺に問いかける。
まいったな……
感の良い所は具無理のマスター譲りみたいだ、
彼女に嘘はつけない。
「萌衣ちゃん、ちょっと立ってくれるかな」
彼女をゆっくりと誘い、市街地を一望出来る丘の突端に立つ、
ああ、俺の過去を覗き込んでもらうとするか……
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