我楽多屋 具無理にようこそ 八
湯船で身体の芯まで温まった萌衣ちゃん、
すっかりリラックスしたのか、眠そうにあくびをする、
うとうとする彼女の背中を丁寧に洗う、
力を入れすぎると何だか壊してしまう気がする程、繊細に感じる肌。
「さあ、背中は済んだよ」
ポンポンと萌衣ちゃんの肩を叩く、
「うにゅ」
寝ぼけたのか不思議な声で答える彼女。
「ご苦労様、三助君」
三助? でく助じゃないの……
「三助って、江戸時代の銭湯に居たんだよ、
男湯も女湯も関係なく、お客さんの背中を洗ってくれる人の事、
おじいちゃんが教えてくれたんだ……」
そんな仕事があったのか、知らなかったな、
「君は私の三助になるの、光栄だと思いなさい!」
笑いながら萌衣ちゃんに任命される……
「三助君、次は腕をお願い!」
萌衣ちゃんが片腕を上げる、まずは肩から洗い、次第に先端に向かい、
泡立てたタオルで丁寧に手を洗い上げる。
「何だかくすぐったい……」
彼女の肩が小刻みに震え、笑いを堪えているのが感じられた。
おっぱいと足を洗うのは、萌衣ちゃんの三助でもさすがダメだろう、
シャンプーで髪の毛を洗ってあげる。
「かゆいところはございませんか?」
おどけて彼女に聞いてみる、
「もう! 床屋さんじゃないんだから、でも三助君 髪の毛洗うの上手、
誰か他の女の子の髪も洗ってあげてたりして……」
「違うよ、そんなんじゃないよ、でも子供の頃は良く、妹の髪の毛を
お風呂で洗ってあげたっけ、懐かしいな……」
「妹って天音ちゃんだっけ?」
「そうそう、あいつ自分で洗うと目に泡が入って痛いって、
良く泣きべそ掻いてたっけ……」
「妹さんと仲良いんだね…… 羨ましいな」
そう言った彼女は急に黙り込んだ、何か落ち込んでしまったようだ。
「萌衣ちゃんは兄弟いないの?」
何気なく話題を変えたつもりだった……
髪の毛を洗う俺の手にそっと、彼女の手が添えられた。
小刻みに彼女の肩が震えているが、笑っているんじゃない、
萌衣ちゃんは泣いていたんだ……
「どうしたの? 洗い方が不味かった、それとも泡が目に入った?」
慌てる俺を尻目に、彼女が静かにかぶりを振った……
「ううん、違うんだ、 昔を思い出しちゃっただけ……
大丈夫だよ、三助君、じゃあ、髪の毛流してくれる」
泣き顔を見られたく無いんだろう、俺はお湯を溜めた風呂桶で
涙も一緒に流してあげた。
「萌衣のわがまま聞いてくれて、ありがとう……」
バスタオルで髪の毛や背中を良く拭いて上げ、
着替えをする彼女を残し、脱衣所を出た廊下で待つ。
まだ外では激しい雨と雷が続いている、
萌衣ちゃんが怖がらなければ良いんだが……
戸口が開き、萌衣ちゃんがパジャマに着替え出てくる、
窓の外の雷鳴に照らされ、シルエットが浮かび上がる、
雷を見た彼女は、先程までではないが、かなり不安そうに見える。
「部屋までおぶって行こうか……」
「ううん、大丈夫だけど、手を繋いでくれない?
やっぱり雷が怖いの……」
そっと差し出した手を取り、暗い廊下を転ばないように慎重に進む、
繋いだ彼女の手が雷鳴が轟く度に、ビクッっと震えるのか分かり、
その震えを消すように、しっかり握りかえす。
二階の萌衣ちゃんの部屋まで到着する、
「この部屋におじいちゃん以外の男の人は入った事ないんだよ、
これも光栄に思ってね!」
部屋に到着して安心したのか、彼女が明るい口調で笑いかける、
あれ?、でも具無理のマスター以外は入った事ないって、
萌衣ちゃんのお父さんはどうしたの?
女の子らしいネームプレートが掛けられたドアを、
静かに開け、萌衣ちゃんが俺を部屋に招き入れる。
「ようこそ、萌衣の部屋に……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます