我楽多屋 具無理にようこそ 七

「全部見た責任を取って、君が洗うんだよ、萌衣の身体……」

 一瞬、萌衣ちゃんの言っている事が理解出来なかった、

 停電の暗闇ではっきりとは見えないが、年頃の女の子の身体を

 俺が直接洗うなんて……

 さすがにヤバいだろ、俺も一応男なんだから。


「……」


「ばっかみたい、君は何、勘違いしてんの?」


 戸惑う俺の雰囲気を察して、湯船に浸かりながら笑い出す萌衣ちゃん、


「えっちい事考えたでしょ? でく助のスケベ!」


「まあ、一応俺だって男なんだし、何か複雑ってゆうか……」


「さっきも言ったでしょ、萌衣の全てを見たのは君だけだって、

 言うなれば兄弟の杯を交わしたって事と同じなんだよ……」


 彼女の、その筋の方みたいな考え方には理解に苦しむが。


「それにね…… 」

 萌衣ちゃんが口ごもってしまい、二人の間に暫くの沈黙が続く。


「君だからお願いするんだよ、でく助君……」


「萌衣ちゃん……」


 バシャッ!

 いきなり萌衣ちゃんが、俺に向かって湯船のお湯を飛ばしてきた、


「何!?」


「だって可笑しいんだもん! シリアスな雰囲気出してるし、

 はい、受け取って……」


 萌衣ちゃんがボディソープと、身体を洗う用のタオルを手渡してくる、


「ちょっと待ってね、もう少しこのままでいたい……」


 暗闇の中、湯船に浸かる君、


「こうして真っ暗な中でお風呂に入っていると、

 広い海の真ん中に、たった一人で漂っているみたい……」


「子供の頃、お父さんとお母さんと三人で行った海、

 楽しかったな、お父さんがサーフボードに幼い萌衣を乗せて、

 沖まで連れてってくれたんだ……」


 萌衣ちゃんのお父さんもサーフィンするんだ、まあ、具無理のマスターも

 この界隈では有名なサーファーだったらしいからな、

 その息子さんが同じ趣味なのも不思議では無い。


「沖から見た空は、とってもキレイで青く輝いていたんだ……

 お母さんの居るビーチのパラソルが、豆粒みたいに遠く見えてたっけ」


 懐かしそうに語る萌衣ちゃん、


「そう言えば、でく助君もサーフィンするんだって?

 おじいちゃんが言ってたよ」


 えっ? 何で俺がウィンドサーフィンをやってた事を、

 具無理のマスターは知っているの?

 海の事に関して話したことは無いはずだ……


「あのスパリゾートでのダンスの夜、おじいちゃん言ってたよ、

 宣人君も同じ匂いがするって……

 自分や私のお父さんと同じ、波と風に魅入られた人間だって……」


 具無理のマスターがそんな事を言ってたなんて……


「だからね、興味を持ったんだ、君に……

 お父さんと同じ匂いって、何なんだろうなって確かめてみたくなったの」


 そこまで話して萌衣ちゃんは勢いよく音を立てて湯船から上がった、


「さて、昔話は終わり! お願いするよ、でく助君」


 浴室の暗闇に動く、白い裸身、うっすらと輪郭が分かる、

 足元を確かめながら洗い場の床に置かれた椅子に腰掛ける。


 手渡されたタオルにボディーソープを良く泡立たせ、

 おそるおそる萌衣ちゃんの背中から洗いはじめる、

 俺の手と彼女の身体との間を遮るのは、薄いタオル一枚だ……


 お風呂上がりのせいか、掌に伝わる温度が凄く熱く感じる、

 だけど不思議と不純な感情は湧き上がってこなかった……


 暗闇のせい? いや違う、裸でなくとも萌衣ちゃんは魅力的だ、

 俺も健全な男だから、人並みにそういう欲はある、

 だけど彼女を一人の人間として理解したい、もっと知りたいと言う

 感情のほうが上回っているからかもしれない、


 めいちょん、君みたいな女の子は初めてだ……

 初めて会った時の印象は最悪だったね、

 今、思い出しても強烈な人だ、

 毒舌、狂犬娘、口を開けばマシンガンの様な罵詈雑言、

 でも、その仮面の下に何か、本当の君がいるんじゃないか?


 それをもっと知りたいんだ……

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